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L'Arc〜en〜Ciel
北の春【前編】~ノンフィクション~ まだ日陰には雪が残るほどの春と言い切れないこの季節に、じんわり額に汗をかきながら小走りで乗り込んだその車両で、その女性が座り場所を探していると、その女性の背後から少し驚いた風な少し低めの声が聞こえた。 「あれ?ジュリじゃない?」 「やっぱそうだよね!」 その声に答えるように、女性は思わず声が漏れた。 その汗で落ちかけた化粧姿を見られたくないとわかっていてスルーしようとしたのか、突然かけられた声に驚いていることを悟られまいと不意に出た言葉だろうか。 女性は少し戸惑いながら、空いていた男性の左隣の席へ腰を下ろした。 それを少し待って男性は問いかけた。 「あのさぁ、タケルと連絡とってる?」 「いや、最近は...5日前にLINEしたきり返ってこないんだよね」 「アイツ、スマホ止まってんだよね。だからさあ繋がらないんだわ」 「へぇ、そうなんだ」 そのタケルを通した何の気ないやり取りから、二人はタケルを含めた友人関係ということは想像できた。 「アイツのこと好きなんでしょ?」 男性は唐突な質問を投げ掛けた。 「えっ。うん、好きだよ...なんで?」 女性は僅かな躊躇いのあと、はっきりと好きと口にした。 「いやぁ、前に飲んだときにずっとタケルの近くにいたしょ?」 男性はその、なんで?に返すように自分の見立てを説明した。 きっと好きな人への行動が周りからもすぐにばれてしまう、あからさまな態度をとる女性なのだろう。 「タケルがジュリちゃんは俺のこと好きかもって言ってたよ」 そんな言葉からも女性の行動を伺い知ることができた。 「でも、このままでいいの?」 会話を途切れさせない男性は心配な面持ちでそう問う。 「うーん、よくはないけど」 その言葉には、悩ましくもどうしようもできない感情が滲み出ている。 「4月からアイツ、東京に行くしょ?」 片想いのまま一週間後には二人の距離が離れてしまう...と、ここで初めて新社会人を迎える淡いストーリーだと言うことを気づかされた。 つづく... #nana民と繋がりたい #L'Arc〜en〜Ciel
