夢を見るのも 何回目だったっけ
‧✧̣̥̇‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧✧̣̥̇‧
蘭花はずっと、幸せだった。何が幸せで、何が不幸かという概念すら知らなかったのだと思う。ずっと当たり前のことだったから、その言葉を意識することなんてなかった。
蘭花のそばにはいつも、大好きなお父さんとお母さんがいた。仲の良い友達もいた。お父さんと外で遊ぶことが、お母さんの作ったご飯を食べることが、好きだった。なんの変哲もない普通の生活。でも今ならたったそれだけで幸せと言えたのだろうと、蘭花は過ぎ去った日々に対して羨望の眼差しを向けた。
そんな日々が終わりを告げたのは、突然のことだった。
ある日を境に、お父さんとお母さんは家に戻らなくなった。そして、蘭花は二人にもう二度と会えることはなかった。お父さんとお母さんは、蘭花を捨ててどこかへ行ってしまったのだ。一人ぼっちになってしまった蘭花は、大好きな家からも離れざるを得なかった。蘭花は嫌だと言い張った。大好きな温もりをこんなにもあっさり手放すなんて、できるはずがなかった。そんな抵抗もむなしく、知らない人たちが来て、わけもわからないまま蘭花は温もりのあった場所から引き離されて、気が付いたら知らない場所にいた。仲良くしていた友達にも、さよならの一言さえ言えなかった。
今まで当たり前のように思っていて、これからも当たり前に続くと思っていた私の人生は、ほんの瞬きをした間にあっけなく奪われてしまった。
最初は何が起こったのかがわからなくて、状況を受け入れようとすることに精一杯だった。しばらくして、空っぽになった蘭花の心の底からふつふつと湧いてきたのは、行き場を無くした怒りと不信感だった。どうして私を置いて急にどこかへ消えてしまったの?今まで私を大切にしてくれていたのは何だったの?
周りを見渡しても、知らない場所に、知らない人達ばかり。彷徨う目線の先に、お父さんとお母さんに代わる温もりをくれる誰かを、蘭花は無意識に求めてしまっていた。誰かを信じたい。話したい。縋りたい。でも、そうやって過ごした人ともいつか別れなければいけないのなら、また悲しい思いをするだけだと思って、できなかった。
でも、心のどこかではお父さんとお母さんの帰りをまだ待っている自分もいた。あんなに怒りが湧いて、嫌いになったはずだったのに、頭の片隅では今いるこの場所から出たらお父さんとお母さんのことを探しに行こうと考えてしまっていた。
信じられるものが自分以外にないのなら、他人のためにすることなんて全部無駄だと思った。もしかしたら、お父さんもお母さんもそのことに気が付いただけだったのかもしれない。それなら蘭花の過ごした日々なんてはなから幻想のようなものだったのだ。元々何も持たないのが正解であるのなら、蘭花は普通に戻っただけだった。何も持たずとも歩けるはずだった。それなのに、未だに寂しいという気持ちが自分の中に残り続けている。その理由を見出すことが、蘭花にはずっとできないままでいた。
‧✧̣̥̇‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧✧̣̥̇‧
lyrics
仄暗い城壁で淘汰した
ガス臭いこの街に生まれて
僕らまだ草原の色も知らない
ここでずっと救いを待ってても
モノポリーが上手くなるだけさ
君はそう笑っていた
群衆の悲鳴 響く銃声
何を命と言うんだろう
白い息混じり 君は呟いた
逃げよう
あの頃僕ら 夢を見ていたんだ
この檻の先には
温もりと愛がきっとあるんだ
閉じた窓の 向こうへ飛んでいく
夢を見るのも
何回目だったっけ
‧✧̣̥̇‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧✧̣̥̇‧
Cast
🥀蘭花 -Ranka- cv.桃ノ助
Instrument
→ https://nana-music.com/sounds/017f9f70
#脱獄 #ボカロ #テイラー
コメント
まだコメントがありません