抜錨
ナナホシ管弦楽団
抜錨
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きみにとっては、確かに救いだったかもね。
⚠️𝓪𝓽𝓽𝓮𝓷𝓽𝓲𝓸𝓷⚠️
本サウンドはオリジナル企画「Solunale Festivitas~そるなれふぇす~」 #そるなれふぇす 参加キャラクターによる非公式サウンドです。
𝓷𝓪𝓷𝓪→ https://nana-music.com/users/10512049
𝓣𝔀𝓲𝓽𝓽𝓮𝓻→ https://twitter.com/solunale_nana?s=21&t=KnvuaX0ItIX-XqHkEWZpPQ
𝓢𝓹𝓮𝓬𝓲𝓪𝓵 𝓣𝓱𝓪𝓷𝓴𝓼→ https://youtu.be/C7h6-jU1DCA?si=g1V5mbtUFLbP4JPj
𝓬𝓱𝓪𝓻𝓪𝓬𝓽𝓮𝓻
🦋ケイデリック・フレデライン(cv:えのき)
💠ノア(cv:さとう)
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💠忘れられぬものだけが 美しくはないのでしょう
忘れることばかりが 美しくはないでしょう
🦋悲しいことばかりが 人生ではないのでしょう
さりとて喜びとは 比べ往くでしょう
💠🦋船よ 船よ 荒波の中で
💠流されずいられたでしょう
💠🦋水底に根差す あなたと穿った少女時代
🦋さよならする頃 強いられるのは
💠🦋抜錨
💠🦋傷の数を数えて 痛みの数 指を折る
🦋一つあまり 小指は 愛しさのぶんね
💠🦋辛いこともありましょう
💠あなたの所為もありましょう
🦋それでも赤い糸
💠🦋結わえて
💠いるのでしょう
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他者と交流を持つようになった頃、気づいたことがある。ある人は憤り、またある人は「致命的だよね」と嘲る。悲しむ人もいた。
それは、ひとの名前を覚えることが極端に苦手であること。
「ノア。君にひとつ、頼みがあるんだけれど。聞いてくれる?」
そう言った彼の表情は、柔らかく、それでいながら決して相手を逃がさないといった強かな感情を滲ませていた。あんまり切実に訴えてくるものだから、なんだかこちらが身構えてしまう。
どことない居心地の悪さを抱えながら、すっかり重くなってしまった口をようやく開いた。
「聞くだけなら、いいよ。」
「ありがとう。正直、君にこんなことを頼むのは気恥ずかしいんだけれど。でも、君にしか頼めない、君だから頼みたいことなんだ。」
少しだけ俯いたケイデリックは、いつもより少しだけ小さいような、何かに怯えているように見えた。
「…僕のことを、忘れないでほしいんだ。」
「は?」
「違う!あー……なんて言ったらいいかな。今の、この僕のことを、覚えていてほしい…ってだけなんだけれど。ううん、難しいな。」
「それをどうして僕に?人の名前もろくに覚えていないような人間が適任とは思えないね。」
彼も知っているはずだ。
一向に名前を覚えられない僕に、期待を失することなく飽きもせず、その日々のほとんど毎日を惜しむことなく費やしたのは紛れもないきみなのに。
在学している期間は決して短い時間じゃなかった。
もうとっくに覚えたきみの名前を、僕は頑なに呼ばなかったけれど。よりにもよって、君の口から「覚えていて」なんて願いを僕に言うのか。
驚きと戸惑いの入り混じった視線に気づいてか気づかずか、きみは言葉を続ける。
「この頼みをするのは、君しか考えられなかったんだ。だって君は、僕の名前を覚えているから。そして、君はこの頼みを聞き入れてくれる。……そうだよね?」
彼の名前を覚えている人など、幾らでもいるだろう。
彼と親しくみえる人間など、幾らでもいる。
それでも彼は、僕しかいないと言う。
ある種の不遜さえ滲ませる信頼を、彼の願い縋るような眼差しを受けて、僕は黙って頷くことしかできなかった。
まるで呪いのような願いだ、と思った。
同時にふと、「そんなに怯えなくても、僕はきみの手を取ってやれるのに」と思ったことは、再会の日にきみがこの呪いを忘れていなかったらいつか伝えることにしよう。
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#抜錨
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