歌を歌おう
🎼ルチア・ゴットリープ
歌を歌おう
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第2節 この愛は永遠
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イヴを探しに行こう。
ネージュがそう決意したのはイヴが姿を消してから1ヶ月後のことだった。ネージュの知っている世界はこの家と雪山と麓の村々だけ。それ以外の場所は未知の世界だ。けれどイヴのいない家でじっとしているよりはずっと良い。
いつも通り髪と瞳の色を変えて、さてどこに行こうかと首を傾げた。いつも行く村の魔力を探ってみたが、イヴの魔力は感じられない。
となるとそれ以外でネージュの知っている場所は限られていた。
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ネージュがやってきたのは王都だった。
前回ほどでは無いが人が多い。生き物が多ければ多いほど魔力は混ざり合い、辿るのが難しくなる。ネージュは広い王都をあちこち歩き回ったが手がかりは見つからなかった。
ネージュが途方に暮れて、広場の噴水のふちに座り込んだ時にはもう空には星がきらめく時間になってしまっていた。雪山ほどではないが冷たい夜風が吹き、ネージュは体を震わせる。
「きらきらきらめく小さな星よ……愛するあなたを空から見てる……」
思わず口からこぼれたのはイヴから習った曲だった。すると、そこに場違いなほどに明るい声が響いた。
「やぁ君!素晴らしい歌声だね!」
振り返ると鮮やかな赤毛の女性が立っていた。きらきらと目を輝かせている。
「誰かに歌を習ったのかい?」
ネージュがこくりと頷くと、女の人はがっかり様子で肩を落とした。
「なぁんだ、もう誰かの弟子だったのかい」
「でし?」
「君に歌を教えてくれる人がいるんだろ」
「いない。どっかいったから、探してる」
「おや、それは好都合……じゃなくて大変だ」
女の人はルチアと名乗った。西の国で音楽家をしている人間なのだという。
「もう夜も遅いけれど今夜の宿は?」
「やど?」
「寝る所のことだよ」
「決めてない」
「う~ん、王都とはいえこの時間に女の子が一人でいるのは危険だよ。うちに来るかい?」
「知らない人にはついてかない」
知らない人についていってはいけないとイヴから教えられていたネージュは首を振る。しかしルチアはにっこりと笑顔を見せる。
「私の名前を知ってるかな?」
「ルチア。さっき名乗ってたから知ってる」
「うんうん!その通り!君は私の名前を知っている!なら知らない人ではないよね!」
「……………………そうなるの?」
こんなやり取りをして、ネージュはまんまとルチアの家に連れ込まれる事になった。
「えーと、その辺に座って待ってて。確かこの辺にコップがあったと思うんだけどなぁ……」
ルチアの家は汚かった。家じゅうに楽譜や音楽に関する書物や洋服が散らかっているし、逆にキッチンは使っている形跡がない。ルチアは楽譜を適当に隅に寄せて座るスペースを作る。
「……私、魔女だけど家に入れていいの?」
「え?そうなの?別にいいけど」
「人間なのに私のこと、こわくない?」
「いや?知り合いに魔女がいるし」
そこでネージュは魔法を解く。雪のように白い髪と赤い瞳に姿が戻っていく。
「見た目も変えてた。こわくない?」
「何が?あぁ歌声は素晴らしかったよ!」
流石にネージュにもわかった。
これは変な人だ。
「…………」
「心配はそれだけ?人を探すにしても宿は必要だし、君は世の中のことを知らないみたいだ。ここにいることは君にとってもメリットになると思うけどね」
かくしてルチアとネージュの奇妙な同居が始まったのだった。
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結論から言うとルチアはダメ人間だった。
音楽については天才的だった。弾けない楽器は無かったし、歌ったり演奏した音楽はどれも素晴らしいものだった。
だがその一方で生活能力は皆無に等しかった。家事はてんでできないし、お金はすぐに楽器や楽譜や舞台に使ってしまう。
「こういうのは一期一会だよ。出会ってこれだと思ったら買わないとね!」
「でもごはんが買えない」
「うーん、確かに!困ったね!」
ケラケラと笑うルチアは全く反省していない様子だった。しかし、いくら陽気に過ごしたとしても食糧が湧いて出るわけではない。ネージュが困り果てていたある日、その女性は突然ルチアの家にやってきた。
「ルチア!おりますの!?」
古びたドアの蝶番が悲鳴をあげながら開き、身なりの良い女性が飛び込んできた。
「あれ、マリアどうしたの?」
「どうしたの?ではありませんわ!どうせこの前の歌劇の作曲料は使い果たしているだろうと思って手紙を出したのに、貴女ったら返事も寄越さないんですもの……!わたくしてっきりまたあなたが倒れたのかと!」
「手紙?そういえば来てたかも。えーと多分この辺に埋まっているはず……」
「ううっ、相変わらず汚い部屋ですわね。そもそもきちんと食事をとらないと貴女は……」
と、そこでネージュの存在に気付いた女性は言葉を途切れさせて目を丸くした。
「……ついに犯罪に手を出しましたの?」
「違う違う違う!多大な誤解があるよ!この子は夜遅くに広場にいたから連れてきたんだ。育ての親が失踪したらしい」
「まぁ……それは……」
マリアと呼ばれた女性は気の毒そうにネージュを見るが、途中で何かに気づいたのかハッと顔色を変える。
「この子……魔女ではありませんこと!?」
「そうらしいよ」
「そうらしいよって貴女……この子はまだ子供ですわよ!教育や教養だけでなく魔法も教えなければいけませんわ。ちゃんと責任を持って面倒が見れますの!?」
「音楽についてなら。そして音楽を学べば人生の大切なことは大体学べるさ!」
「そんなわけありませんわ!!!」
マリアはキィーッと叫ぶ。そんなマリアの様子を見てルチアは楽しそうに笑った。
「保護者としての自覚をお持ちなさい!」
「うんうん。今度はネージュの分の食べ物を買うくらいのお金は残すよ」
「そういうことを言ってるのでは無いです!」
騒がしく言い合う2人を様子を見ながらネージュは「仲良し?」と首を傾げるのだった。
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暗闇に迷いながら 希望を
信じてるあなたの笑顔は美しい
たとえばどんなに 苦しいときでも
あなたのように 笑いたい
涙はこれで終わりにしよう
祈りはいつか届くだろう
ほんとうのしあわせに
たどり着けますように
歌を歌おう 悲しいときこそ
歌を歌おう 寂しいときこそ
歌を歌おう こころ込めて
あなたに届くように
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🎼ルチア・ゴットリープ(cv.黒川かずさ)
鮮やかな赤毛に、生きる喜びに輝く黄金の瞳を持つ情熱的な音楽家。
西の国の人間。ネージュの音楽の師匠。作った曲は全てが名曲となり、奏でる曲は全て至上の音楽となる天才。ただし性格は破天荒で、生活力のない奇人。浪費家のためマリアに助けて貰いながら何とか生活している。
刹那的に生きているように見えるが、思慮深い面もありネージュには思いやりを見せる。
【好き】音楽、生きる喜びを感じること
【嫌い】権力争い、ネガティブになること
【特技】音楽の演奏、作曲
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◇第2章 プレイリスト◇
https://nana-music.com/playlists/3840346
◇素敵な伴奏ありがとうございました◇
MUGi様
https://nana-music.com/sounds/062089fc
◇ 𝕋𝕒𝕘 ◇
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