nana

シリウスの心臓
63
10
コメント数0
0

第3節「白い牙 シュテルン天文台」 ⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ シュテルンの元から逃げるように去った日からカロラインはシュテルンの病について調べ始めた。 しかし、カロラインは少しばかり星に詳しいだけの魔女だ。めぼしい情報は得られなかった。魔法は自然の力の助けを借りるだけで、不可能を可能にすることはできない。 己の無力さにうなだれていたある夜、カロラインの小屋の扉を誰かがノックした。もしやと思い慌てて扉を開けると予想通りの人物に目を丸くする。 「シュテルン……!?どうしてここに?1人で来るなんて危ないじゃない!」 「今日は吹雪もないし、そこまで寒くなかったから大丈夫だったよ」 「……とにかく中に入りなさい」 今夜は寒くないどころかここ最近1番の冷え込みを感じる日だった。シュテルンの感覚がそこまで無くなったことにカロラインは打ちのめされる。 カロラインは暖炉の近くにシュテルンを座らせると適度な温かさにぬるくしたお茶を渡す。 「……今日はどうしたの?」 「カロライン様に謝りたくて」 「謝る?」 「病気を黙ってたこと。きっと優しいカロライン様ならもう危ないから来ちゃダメって言うと思ったから言えなかったの」 シュテルンはマグカップを両手でぎゅっと握りしめると窓のほうを振り返る。 「私は物心ついたときはもうほとんど目が見えなかったの。だからおばあちゃんがたくさんお話をしてくれた。いなくなった恋人を探す魔女の話とか、満月の夜の不思議なパーティの話とか、死んで星になった女の子の話とか……」 「前に言っていた話ね」 「うん、一番好きな話だったの。女の子は才能もお金も何も無かった。でも優しい心の持ち主で周りの人達にうんと親切にしたの。神様はそれに感心して夜道を照らす星にしてくれたってお話」 そこでカロラインは初めて、シュテルンは窓ではなく、窓際にある望遠鏡を見つめているのだと気付いた。 「カロライン様が星を見せてくれた時、本当に感動したんだよ。もし死んじゃってもこんな綺麗なものになれるなら怖くないって思えたの。カロライン様には怒られちゃったけど……」 「いえ……私の方が悪いの……」 「カロライン様?」 声を詰まらせたカロラインの様子がおかしいことに気付いたのか、心配そうな顔でシュテルンがカロラインの頬に手を伸ばす。その手はきっと涙で濡れていることだろう。シュテルンにはもう見えないし、感じることもないけれど。 「貴女を喪うかもしれないという現実に、私が耐えられなかっただけよ。貴女は悪くない」 「ほんとに?」 「ええ。星になりたいという貴女の気持ちが本物なら私がそれを否定する権利は無いわ」 「良かったぁ!もし私が星になったらとびきり綺麗な星になりたいなぁ。あの山のてっぺんで光るキラキラしたお星様!」 夜空を指さして無邪気にそう語るシュテルンの隣でカロラインは静かに涙を拭う。シュテルンが自分のさだめを受け入れているのなら、それを悲観するのは彼女に失礼だと思ったからだ。 そして、カロラインは病について調べるのをその日から止めた。その代わり残りの日々をシュテルンと穏やかに過ごす事に全てを傾けたのだ。 ~~~ 「そして……シュテルンは昨日旅立ったわ。家族に囲まれて幸せそうだった」 「えっと……それは、残念だったね……」 「ええ、大丈夫なの?」 「あまり……大丈夫ではないわね」 心配そうな顔をするオホツチとワダツミに、カロラインは苦笑する。 「この小屋も星もあの子との思い出が多すぎて。だから少しこの山を離れようと思っているの。さっき貴女達に会ったのは最後に星をもう一度だけ見に行こうと思ったからよ。あんな天気だから星が見えるはずもないのにね……」 カロラインの言葉にオホツチとワダツミは顔を見合わせる。星が好きだというカロラインが白い牙を離れようとするというなら相当だ。 「それなら……星を見に行こう!」 「ええ、そうよ!最後なら尚更!」 オホツチとワダツミは望遠鏡を担ぐと、カロラインの手を引いて小屋の外に出た。風はいつの間にか止んでおり、むしろその風に吹き飛ばされたのか夜空には雲一つ無く星が輝いていた。 そして、微かに見える山の稜線の上に目をやったカロラインはハッと息を飲んだ。 「わぁ!綺麗な星ね」 「うん、綺麗な星だ」 山の上で澄んだ光を放つ青い星。 まさしく山のてっぺんに輝くその星は、これまでそんな所には見えなかったことをカロラインは知っている。突然現れたその星の光に照らされて沈んでいたカロラインの瞳に輝きが戻る。そしてその輝きが溢れるように涙になる。 「本当に星になったのね、シュテルン……」 カロラインは2人を振り返ると、そっと望遠鏡を受け取って涙を拭った。 「やっぱり山を下りるのは止めるわ。代わりにここに天文台を建てることにする。そうしたらいつまでも星を見ていられる──ずっとあの子といられるもの」 「うん。それがいいよ」 「ええ。すっごくいいアイデアだと思うわ!」 2人の答えを聞いてカロラインは微笑んだ。 そして、その笑顔が水面のさざ波のように揺らいだと思ったら、いつの間にか2人は滞在者用の部屋に戻ってきていた。ベッドの上には置きっぱなしの襟巻もそのままになっている。 「良かった。カロラインはずっと『シュテルン』と一緒だったのね」 「うん、そうだね。本当に良かった」 2人は案内役のカナリアから星が由来とされていると聞いたこの天文台の名前を大切そうに口ずさみ、そして密かに笑いあったのだった。 ⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ 🔭カロライン・グリニッジ(cv.07) 歌を歌うのは哀しいから 目を閉じるのは泣きたいから 風を読むのはあなたに 少しでも早く会いたいから 明かりになったあなたへ 宇宙に届くまで待っていて 明かりになったあなたの 心臓は凍らずいるかしら ・・ ・ー・・ ーーー ・・・ー ・ ー・ーー ーーー ・・ー ・・ ・ー・・ ーーー ・・・ー ・ ー・ーー ーーー ・・ー ⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ 🔭カロライン・グリニッジ(cv.07) 西の国の魔女。 人間嫌いなため他人との関わりを好まず、北の国と西の国の国境にある雪山「白い牙」に1人で暮らしながら星の研究をしていた。無口で無愛想な性格だったが、シュテルンと出会い心優しい性格になっていく。彼女との思い出を胸に、後進の育成と天文台を建設にその生涯を捧げた。 ⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ 𓆙第4章 プレイリスト𓆙 https://nana-music.com/playlists/4096351 𓆙 素敵な伴奏ありがとうございました𓆙 しろすみ様 https://nana-music.com/sounds/06505822 𓆙 𝕋𝕒𝕘 𓆙 #すみしろ伴奏 #魔女カロライン

0コメント
ロード中