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08
-Panicled hydrangea-
貴女のペースで、青空を見つけて
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「わ、真っ暗…早く帰らないと」
買い物を終えた私は、真っ暗な空の色を見て急いで帰路についた。
「ただいま!」
ひときわ明るい声で帰宅を知らせたが、なぜか同棲相手の反応が返ってこない。
「理紅さん…?寝ているの?」
不思議に思いつつリビングまで足を進めたところで、テーブルの上に1枚の紙が置いてあるのに気がついた。
「どこかに出かけたのね」
私はとりあえず買ってきたものをしまい、椅子に腰かけてから紙に書かれた文字を読み始めた。
「………え」
____しかしその瞬間、私の世界は色を失ってしまった。
"愛する女性ができてしまったんだ。愛佳には本当に本当に申し訳ないと思っている。こんな最低な男なんて忘れて、幸せになってくれ。"
…そう記された紙が、私の手から滑り落ちてカサリと音を立てる。
「嘘……よね」
お揃いで買ったマグカップが片方だけなくなっているのも、私にくれたはずのコスメセットが消えているのも、何かの間違い、よね。
「…あ、雨…」
パタパタと音がして窓の外に視線を向けると、真っ暗な空から大粒の雨が降り注いでいた。しばらくの間雨粒が窓を打ちつけるのをじっと見つめていたが、やがて認めたくないものを無理やり認めさせられてしまいそうな気がしてきて、勢いよくカーテンを閉めた。小刻みに震え出した身体をさすりながら、自分に言い聞かせるように呟く。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと帰ってくるわ」
🥀
彼がいなくなってから1週間。相変わらずどんよりとした雲が空を覆っていて、なかなか太陽が現れない日々が続いていた。そんな最近の天気が、私の心をそのまま映し出したもののように感じてしまって、あの日からずっとカーテンを閉め切ったままでいる。…この1週間で食欲は大幅に減り、なかなか眠れない日が増えた。それでも毎日決まった時間に起きて、理紅さんがいつ帰ってきてもいいように家事をこなし続けていた。しかし今日は、連日の睡眠不足のせいか身体が動かせないほどの強い眠気に苛まれていた。なんとか抗おうとしたが、自分の意思に反して身体から力が抜けていってしまい、とうとう布団の上に倒れ込んだ。目を閉じる前に見えた自分の腕が、やけに細くなっていたように見えた…気がした。
🥀
ふわりとあたたかい風を感じて、身体を起こす。今日は晴れたみたいね、よかった。……あれ、でも私、窓もカーテンも閉め切っていたはず…よね?
「…え??」
疑問と違和感を感じて目を開けると、古い建物が視界に入った。見知った室内の光景ではなかったことに混乱しながらもぐるりと周りを見渡してみたが、ただただ雲のようなモヤが続いているだけだった。
「…あの建物に入れってこと…?」
正直とても怖いけれど、このまま座っていても何か進展があるとは思えなくて、ゆっくりと立ち上がる。ドアの前まで歩き、控えめにノックをしてから中に入ると、女性がにこりと微笑んだ。
「お待ちしていたわ。貴女のご希望の花は…こちらね。どうぞ」
「え?あ、あの、頼んでいないんですけど…」
女性は私の言葉を笑顔でかわすと、私の手にしっかりとお花を握らせた。彼女は真剣な目を私に向けた。
「厳しいことを言うわね。…貴女は今の状況を前にして、立ち止まっていてはいけないわ。雨が降って止まないのを嘆くくらいなら、貴女は貴女の心を晴らすために行動しなさい。眺めているだけでは、到底晴れることはないのよ」
まっすぐ伝えられた女性の言葉が重くのしかかり、涙が溢れそうになる。なんとか堪えようと唇を噛んだ途端、あたたかな体温に包まれ、私はとうとう嗚咽を漏らして号泣してしまった。…本当は、あの紙を読んだときに、全部分かっていた。紙に書かれたことが真実であることも、彼がもう帰ってこないことも。だけど、現実を認めるのが、どうしても怖かった。私は、理紅さんを心の底から愛して、信じていたから。
「…立ち直るには、たくさんの時間が要るわ。だから決して、焦らないで。貴女のペースで青空を見つけるのよ。…大丈夫、私とこの花がついているわ」
女性がそう言った瞬間に眠気が襲ってきて、私はやさしい温度に包まれたまま目を閉じた。
🥀
携帯のアラームの音で目が覚めて、ぐっと伸びをする。夢の中で思い切り泣いたからか、気持ちは随分とすっきりしていた。いつものようにベッドから起き上がり、洗面所に向かおうとしたところで、私は足を止めた。寝室に置いてあるチェストの上に、あの女性からもらった花が置かれていたのだ。驚きつつ近づくと、優しい香りが鼻先をくすぐった。
「…青空、私のペースで見つけられるように、頑張ります」
私はそう誓うように言うと、振り返った勢いのままカーテンと窓を開け放った。久しぶりに顔を見せた太陽の光が、私を決意ごと明るく照らしてくれたように感じた。
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息を潜めて 膝を丸めて
締め切った窓の外、泣き出した空
掠れた声で 君の名前を
繰り返すのはもう終わりにしよう
傘を広げて踏み出す世界
酷く濁った空っぽの世界
いつか来た道 零れる雨が
君の色だけ 消してしまう前に
ずっと君のこと 探してしまう
今にも落ちてきそうな空を
見上げてはまた一人で
雲間に覗く青を待ってたの
胸の奥のずっと奥を
突き刺すように冷たい
雨音だけ響くよ
ねぇどうか…
雨上がれ
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🤎ミナヅキ cv.くらげ∞
https://nana-music.com/users/1819852
伴奏︰まさ@Merveille様
イラスト︰ゆん様
SS︰琉伊
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