___短い一章に
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「森」と表現してなんら問題のない光景が視界いっぱいに入り、重い身体を起こす。
ここは何処だろうか…。近くに海があるのか独特の磯の香りが鼻をさす。
状況を整理しようにもクロエの置かれた状況が不可思議で、上手くまとまりそうにも無い。これもクロエに課された試練なのだと思おう。そうでもしないと正気を保てない。
夕方、もしくは夜明けだろうか?もしこれから夜が来ると言うのなら、一刻も早く森から離れなければならない。
どこまで森が続くか分からないなら、磯の香りを強く感じる左に向かうのが吉だろう。
そう結論付け、クロエは歩き出した。
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潮風に当たりながら、何時間も砂浜に座ってぼぅっと過ごしていた。
ここは何処だろうか。シャロルはついには母様の元へ行けなかったのだろうか。
お役目を知らぬままこちらへ来てしまったのだから当然、かもしれない。
信じたくないなぁ…。母様に会いたいなぁ…。
そんなどうしようもないことを考えながらただぼぅっと過ごしていた。
どれくらいの時間そうしていたか分からないけど、空の色はずっと変わらない。
シャロルはここで何を待っているのだろうか。そんな疑問が頭いっぱい埋めようとしていた時、後方で砂を踏むザクッとした音が聞こえた。
驚いた勢いそのままに振り返ると、髪が短い…(たぶん、)女の子が立っていた。
女の子は難しい顔をしていて、シャロルの周りにいなかった感じの子だと思った。
どうしよう?怖い人だったら怒られてしまうかもしれない。
シャロルは礼儀を知らないとよく噂されていたのを知っている。…母様がいないからだめなんだとも。
それを思い出すとなんだかそんなことない!って言いたくなってしまって。
震える声で女の子に声をかけてみる。
「こ、こんばんは…!」
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しばらく歩いて、土が砂へ変わる。
太陽は先程と同じ位置。違和感。
砂をしっかりと踏みしめながら浜辺へ出ると、幼い印象を与える顔立ちの少女が座り込んでいた。
先程までは海を見つめていたのに、急にこちらへ振り向いたから少し驚いた。
どうするべきか少し悩んでいると裏返って震えている、拙い声が飛んでくる。
孤児院ではもう何年も挨拶なんてしていないのに、自然と「こんばんは」と返した自分にまた驚く。
挨拶を返したことで安心したのか、少女は立ち上がりこちらに駆け寄ってくる。
「初めまして!貴方もおわりを迎えたんですか?」
純粋に見つめる瞳が眩しくて、クロエを苦しめる。彼女はきっと、まだ生きたくてもこちらへ来てしまったのだろう。自ら望んだクロエとは違って。
それを感じてしまう彼女の瞳は、クロエと同じ色をしているのに全く別の物に写る。
黙り込むクロエに彼女は慌てだし、謝罪の言葉と名を教えてくれた。
「シャロル・アダムス」
綺麗な名だ。取って付けたようなクロエの名とは違う。生きてきた世界が違う。
綺麗なガラス玉のように、丁寧に飾られて、時々柔らかいハンカチで拭いてもらって。
きっとそんなふうに生きてきた。
彼女――シャロルと関わるのは、クロエが苦しくなるだけだ。
それなのに、シャロルはこちらの様子を伺いながら「主様」が「母様」がと話をしている。その話を聞き流さずに聞いているクロエもクロエだが、シャロルの口調は言い聞かせるようなものでまた違和感を覚える。
なんだかまるで……。
「それを本当に信じているのか?」
そう漏らしてしまったクロエにシャロルはピタリと話を止める。
これは……、地雷を踏んでしまったかもしれない。少しの焦りと安堵。これ以上関わらないでいられる、と少し思った。
返されるであろう言葉を聞けば、この場を立ち去る。太陽は動く気がないらしいから、なんら問題は無い。
それなのに返ってきた言葉は
「信じたいと…信じたいと思ってるんです。」
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シャロルの話を聞いて彼女が漏らした言葉にトゲがあるようには感じなくて。むしろ、シャロルではない別の人に問うているような。
シャロルよりもずっと親しい仲の人に、心配するようなそんな問い掛けに感じて。
シャロルの気持ちをそのまま、言葉にする。
問うてから、少し憂いを帯びた表情をしていた彼女は、シャロルの言葉を聞いて目を見開く。それから暫くして、
「悪かった。…クロエ。名前、」
気まづそうに名乗るクロエにちょっとだけおかしくなって、悪戯をする子供のように「クロエ!」と何度も呼ぶ。
少し怒ったようにやめろと言われたけど、顔がりんごみたいに真っ赤で分かりやすい。
それからはシャロルの話。クロエの話をした。
シャロルが知らない環境で、クロエは必死に生きていた。
許されないと言い聞かせるクロエがいやで。
難しい話なのに、シャロルには分からないのに思わず言ってしまう。
「クロエがこんなに頑張ったこと、許してもらえなかったならわたしが許す…!」
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真面目な顔をして告げ、クロエの手を握ったシャロルは、"彼女"に重なって。
自然と涙が溢れる。
それを見て少し慌てながらもクロエを抱きしめ、背を叩くシャロルに胸がいっぱいになって。
クロエがクロエを許せなくても、シャロルは許してくれたのが嬉しくて。
クロエはシャロルを勘違いしていたのに。
何にも苦労なんてしてない、なんてことなかったのに。
それでも優しく接してくれるシャロルが温かくて。嗚咽混じりに自然と漏れる謝罪の言葉一つ一つに、「いいよ、頑張ったね」と返すシャロルにまた涙が溢れる。
どうか、シャロルを母様に会わせてあげて。
神様を呪ったクロエの願いを、聞き入れてくれとは言えないけれど。それでも願わずにはいられない。
「大丈夫、大丈夫だよ。大丈夫だから。」
「だからもう…泣かないで、クロエ。」
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𝑪𝒂𝒔𝒕
🗡クロエ・ダドリー(cv.みやこなん)
#シスタークロエ
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💠シャロル・アダムス(cv.瑠莉)
#シスターシャロル
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𝒍𝒚𝒓𝒊𝒄𝒔
💠乾いた海の跡 望んで
まだ見ぬ対岸を描く
🗡囚われの心のままなら
こんな傷みも知らずにいた
🗡美しい詞を告げたひと
🗡💠夜明けも待たずに
果てのその先を泳ぐ 虫の唄
眠らず君と聞いた記憶
手を ただ結んで
💠半色でも 遠い国でも
🗡💠短い一章に生まれた夢を
抱きしめに行こう
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𝑻𝒂𝒈
#AkashicRecords #シスター達の鎮魂歌
#ハシタイロ
#kujisuna
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