ミカヅキ
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
ミカヅキ
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__𝕀 𝕤𝕥𝕚𝕝𝕝 𝕨𝕒𝕟𝕥 𝕪𝕠𝕦 𝕥𝕠 𝕗𝕚𝕟𝕕 𝕞𝕖.✩₊*˚
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気付くと、儀式場の入り口に立っていた。
星天界の中で最も神聖な場所を隔てる、分厚い扉。その扉越しでも、中にいる星巫女達の感情が伝わってくる。
人を殺した叶夜への怯え、憎しみ、怒り、恐怖。いくつもの負の感情が、たった一人に降り注ぐ。分かっていたことだった。仕方のないことだった。
叶夜一人に向けられる感情が、毒のように叶夜の心を蝕んでいく。これが、叶夜に下された罰で、報いだった。
叶夜は、人を殺したのだから。
同じ星巫女である刹那を殺したいと望み、その願いによって与えられた銃で、実際に刹那を撃った。
琉歌を死へと誘導したのは、間違いなく刹那だった。彼女は自分が生き残るために、琉歌を犠牲にした。そのことが許せなかったから。
だけど、刹那は死ななかった。彼女と共に行動していた柊葉が、刹那を庇った。刹那を殺すはずだった銃弾は柊葉を撃ち抜き、その命を奪った。
柊葉は、常に何かに怯えているような少女だった。初めて出会った時から、ずっと。表向きはいつでも笑みを絶やさずにいるのに、誰よりも強い負の感情を抱えていた。
一度星天界で彼女と二人きりになった時に、どうして刹那と行動しているのかと聞いたことがある。その時の表情が、まだ忘れられない。
目を見開いて、苦しそうに息を詰まらせて、それでも笑顔を作ろうとしていた。
柊葉がどのような環境で暮らしていたのか、叶夜には知る由もない。だけど彼女は、自分の抱える弱さを他人に知られることを極度に恐れているように見えた。
臆病な少女だったのだと思う。誰よりも、ずっと。
そんな彼女が、刹那を庇って死んだ──叶夜に殺された。
叶夜は、琉歌を庇おうともしなかったと、その時突き付けられた気がした。
琉歌を死なせないために、叶夜は何もしなかった。何も出来なかった。なのに、叶夜は怒りに呑まれて人を殺した。
刹那を殺すことを琉歌が望んだわけではない。琉歌がそんなことを望むわけがない。刹那を許せないという、ただの自分のエゴだった。叶夜は自分のために、琉歌が大好きだった星天界を血で汚した。
自分の決断は、正しいと思っていた。だけど違った。誰かを殺す決断が、正しいはずなかった。
殺意と化してしまった強い怒りは、既に叶夜の中には燃え滓すらも残っていなかった。柊葉の命と引き換えに、暗闇に溶けて消えてしまった。
空っぽになった心に遺されたのは、自分は人殺しなのだという罪の意識だけ。罪悪感、なんて軽いものではない。幼い頃から叶夜の中に根付いていた自己否定が、飛び散った血と絡まり合って叶夜の首を絞めていた。
お前は人殺しだ、と耳元で誰かが囁く幻聴。気持ち悪い。近付かないで。過去に投げかけられた言葉が蘇り、思わず口元を抑えた。事実なのだ、全部。
銃弾を受けて倒れる柊葉が、彼女の最期の歌声が、柊葉の名前を呼び続ける刹那が、何度も何度も繰り返し目の前に描き出される。その場にいた全員の強い感情が流れ込んでくる。叶夜が作り上げた地獄だった。
あの時どうして、自殺を選ばなかったのだろう。刹那を殺そうとせずに、一人で死んでいれば良かった。これ以上苦しまなくて済んだ。誰のことも傷付けずに済んだ。
刹那を殺すという決断を正しいと信じこんだ自分を、自分自身が誰よりも許せなかった。
扉の向こうからは、物言わぬ声が聞こえてくる。強い負の感情が、流れ込んでくる。
人を殺した叶夜への恐怖。嫌だ、怖い、助けて、という半狂乱の叫び声。深い絶望と、叶夜への静かな怒り。
痛くて痛くて、心臓を握り潰されているかのようで。耳を塞いでしまいたかった。
だけど、叶夜にそんな権利はない。それで許されるだなんて思わないけれど、全てを受け止めることが叶夜のしなければならない償いだ。
「……ごめんなさい、琉歌」
深く息を吸い込んで、叶夜は扉を開いた。乾いた涙の跡をなぞるように、透明な雫が伝っていた。
◇◇◇
心が空洞になってしまったかのようだった。
柊葉の死を理解した刹那は、ただ涙を流し続けていた。両親が死んだと聞かされたとしても、これほど涙を流すことはなかっただろう。
濃い血の匂いに包まれる中、刹那は一人、嗚咽を零し続けていた。
どれくらいの間、そうしていただろうか。
他の星巫女の気配を感じた時、既に陽は沈んでしまっていた。涙の跡が乾いて、頬に張り付いている。
あれほど荒れていた感情の波は、不思議と凪いでいた。自らの正しさと感情に生じた矛盾も、抑え込めなかった苦しみも悲しみも、元々そこには何も無かったかのように何も感じられなかった。まるで、神様が刹那の身体に乗り移ったかのようだった。
それでも、一つだけ。消えないまま残っている感情があった。神様にさえ飲み込まれなかった、初めての感情。
柊葉を殺した叶夜への怒りが、奥底から沸々と静かに湧き上がっていた。正しさのためではない、自分のための怒りを覚えたのは初めてのことだった。
血溜まりの中に転がした、刹那を殺したピストル。そっと指を触れさせると、星天界の床と同じ、冷たい温度が伝わってくる。命を奪う温度だった。
刹那の正義は、中央政府を壊すことだ。幼い頃からずっと変わらない、絶対に揺らぐことのない正しさだ。そのためならば、刹那個人の感情なんて些細なことだ。そう理解はしている。
正義を成し遂げるためには、不要な感情を殺さなければならない。理解しているはずなのに、それでも叶夜への怒りは消えなかった。
刹那は柊葉に救われていたのだと、失ってから初めて気付いた。裏切られ続けた刹那を、命を賭して守ってくれたのは、柊葉が初めてだった。
だから刹那は、叶夜を殺す。叶夜が刹那への怒りを元に銃を向けたのならば、刹那も同じことをする。
正義を穢すものを殺すのではない。たった一人のために、刹那は人を殺すのだ。
こんなに感情的になって行動したことなんて、生まれて初めてのことだろう。
扉の軋む音がする。今儀式場の中にいない星巫女は、叶夜だけだ。柊葉が殺された時と、全く同じ状況だった──柊葉が生きていない、ということを除いては。
あの時と同じように、視線を真っ直ぐ扉へと投げかける。一つの影が、扉の向こうから現れる。
顔を上げ、刹那を見据える人影に向けて。
刹那は、真っ直ぐに銃口を向けた。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
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✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
☔️今宵も頭上では
綺麗な満月がキラキラ
⛓幸せそうに世界を
照らしている
❄️当の私は
出来損ないでどうしようも無くて
☔️夜明け夢見ては
地べた這いずり回ってる
☔️⛓❄️それでも誰かに見つけて欲しくて
夜空見上げて叫んでいる
☔️逃げ出したいなぁ 逃げ出せない
❄️明るい未来は見えない ねぇ
☔️⛓❄️それでもあなたに見つけて欲しくて
蝶のように舞い上がるの
⛓欠けた翼で飛んだ
☔️⛓❄️醜い星の子ミカヅキ
☔️光を放つよミカヅキ
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♉︎Taurus #星巫女_叶夜
☔️叶夜(cv.碧海)
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♊︎Gemini #星巫女_璃星
⛓璃星(cv.唄見つきの)
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♒︎Aquarius #星巫女_雪涙
❄️雪涙(cv.海咲)
https://nana-music.com/users/579307
₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴ええむ様
https://nana-music.com/sounds/05beea82
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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