あの日の種は今も花開く
CHiCO with HoneyWorks
あの日の種は今も花開く
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「ええ、あれだけの大仕事の後なのに、畑のお手伝いまで出向かせる訳には…」
ニフは頬に手を当てて申し訳なさそうな顔で言う。
「いえ!手伝いというか…私が行きたいんです。本当は理事会のお仕事手伝わないといけないのに、時間貰ってすいません」
シノも負けじと頭を下げる。…事は1時間前、昼休憩が終わり窓口を開いた直後。理事会管理の畑を委託されている農夫が現れたのだ…今年は暖かな日が長く、ハロウィンのカボチャを収穫した後もカボチャが枯れてくれずに除去できないのだそうだ。相談内容に向かうのは理事会員の仕事。ニフは出張所の物置から道具を取り出そうと立ち上がると、シノがすかさず自分に任せて欲しいと提案したのだ。
「私、小さな町の出身なんです。本当、田舎なんですが…皆農夫で、どんな野菜も育てられる人ばっかりで!私の親は農夫を纏める仕事でしたけど…でも、生まれてずっと畑に触れ合ってたからきっとお役に立てると思うんです!」
そういうとニコリと微笑んだ。その顔はいつもの理事会員の顔ではなく、昔を懐かしむ女の子の顔だった。ニフは仕事を増やした事を再度謝りつつ、シノに行ってもらう事にした。
「…わぁ!キリエって思ったより広いんだなぁ…」
いつもは商店街を中心に回っているシノ、なかなかここまで出てくる機会はない。住宅エリアも超え、草原地帯も超え、世界樹の森の近くの農地にたどり着いた。…あぁ、なんとも懐かしい、よく耕された土の匂い…
「やぁ、来てくれましたか!ありがとうございます」
出張所に来た農夫が出迎えた。兎の獣人…シノの町も草食獣の獣人が多い。彼の姿に余計に懐かしさが募る。
「さぁ、こちらです…。凄いでしょ?今年のランタンはとても豪華だったと思います。それは良かったんですけど…あれだけのカボチャが取れるってことは、処理もたいへんなんですよね」
農夫は困ったように頭を搔く。見渡す限りのカボチャの蔓。カボチャが成っていないだけで、生育中の畑に見える程青々としている。しかし、これ以上育てても蔓が繁るだけで、更に枯れた後の処理が大変になるだけだ。
「ふむ…作業に関われる方は何人ですか?」
シノはメンバーを集めると、すぐに役割を分担する。力のある者は鍬を持ちカボチャを根元から掘り起こさせ、残りの者はハサミや鎌を持たせてカボチャの蔓をなるべく細かく切るようにお願いすると、畑の区画を決めて人数を振り分け作業に取り掛かった。
指示を飛ばしながらもシノもハサミを持って懸命に蔓と格闘…。手際が良いと褒められて少し照れる。
『シノ、また町の方々のお手伝いしてたのね?偉いわ』
『シノ、しっかり見ておけよ。この町にとって農業は何よりも大切だ。私たちは農夫ではないが…首領として、作物を世界に売る者として…お前は誰よりも知らなければならないんだぞ。彼らの仕事を、その有り難さを』
…作業に没頭しながらも昔のことを思い出していた。進路の事で絶縁手前まで喧嘩した父、分からずやで家の事しか考えていない大嫌いな父…喧嘩していた時はそう思っていた。最後まですぐに家を継ぐ事を望みながらも、大学へ進む私を想って泣いてくれた父、今では一人前の私を自慢に思ってくれている父…。
「…そっか、私…小さい時から大切な事を教わってたんだな…。あの言葉、小さい時は分からなかったけど…理事会員になってもあの言葉は…私に沢山のことを教えてくれてるんだな」
少し泣きそうな、でも幸せに溢れる心。シノの後ろには、皆で頑張って処理したカボチャの蔓が細かくされて畑を覆っていた。
「…さて、藁とシララのキノコが生えた落ち葉は用意出来てますか?」
「勿論!…って、理事会員ってのは農業も学ぶので?処理法も、使う材料も知ってるなんてプロの農夫と変わらない知識量ですよ」
農夫は感心するような、驚くような表情でシノを見た。
「…ふふ。皆様を支える者として、しっかりと皆様の姿を見て感謝をしていますからね!」
シノは少し胸を張って笑った。
シノの的確な指示のおかげで、蔓は藁と落ち葉と共に地面に広く埋められた。
「仕上げは私が…トートは指し示す。彼の地には雨が降り注ぐと…その知恵は予言する。雨が降ると、雨が降ると」
シノはスティックを畑をなぞる様に振りかざすと、水の魔法で畑を湿らせた。
「地面に触れてみて…うん、少し温かい。上手くキノコが藁と蔓を土に分解してくれてますね。これでもう大丈夫だと思います」
シノの言葉に皆拍手。一日作業だと思われていた重労働が、指示のおかげで半日で終わってしまったのだ。
「本当にありがとうございます!これ、良かったら食べてくだい。ささやかなお礼です」
カゴいっぱいの冬野菜が手渡された。
『お嬢様、いやぁ、シノちゃん!こんなに仕事手伝ってくれたのは今までの首領でシノちゃんが初めてだわ!さぁ、これお礼の品!一生懸命育てたお野菜食べてね』
また昔を思い出す。…お嬢様扱いされて悩んだ日もあったけど、今こうやって感謝されているのは親や家族、あの町があってこそなんなだ。そう思うとまた泣いてしまいそうだ。
「ありがとうございます!感謝を込めて頂きますね!」
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風のマナを手に入れた
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