その心に火をつけて
ONE OK ROCK
その心に火をつけて
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バン!レオの店の机が叩かれる音。目を丸くするレオの前にはうずうずと体が震える武器屋。
「ドワーフの…丘!?そんなところがあったのか!?新たな発掘場!ドワーフの名がついているならそこは確実に鉱石が取れる!あの亜人達は本当に地脈や地層を読む能力は天才的だからな!」
興奮で語気が強くなる。しばらく銃作りに熱中し過ぎて鉱物はだいぶ底をついていた。わざわざ遠くまで買い付けに行っていたドワーフが管理する鉱山もだいぶ疎遠になっていた。買い付けに行けばよかったが、燃え尽き症候群だろうか?なかなか足が進まなかった。ただ何となく、ストックの鉄や鉱石で修理を最低限やるぐらいしか最近はしていない。…これではダメだ、でも気が乗らない…。気晴らしに訪れたキリエの新店、レオ素材屋。ここでなにか面白い素材でもあれば…と考え無しに顔を出しただけだった。
「まさかこの短期間にキリエ周辺の地理を徹底的に学んでいたなんてな。素材を売るだけじゃなくて、採取ポイントを教えて買取もするなんて、上手いシステム考えたよな…。いや、それはさておき!まさかこんな近場に採掘場があるのは本当にいい事を聞いた」
無表情の顔にキラキラ光る瞳といつもより饒舌な口。楽しげな雰囲気が伝わってくる。一時前まではカンカンと鉄を叩く音や武器を振り回す物騒な音が鳴り響いていたのに、武器屋の工房は悲しい程に静かになっていたのをレオは知っていた。
「何か良い刺激になれたら嬉しいです。ちなみに今なら蛍石の買取を強化しておりますよ。ランプを作る素材が欲しいと依頼が…いや…」
何かを取り戻したかのようなジーグの顔に、レオは口を閉ざす。
「行ってらっしゃい」
広い広い世界樹の森。世界樹側に進むのではなく、脇道に逸れながら進んでいくと足場がどんどん悪くなる。
「うわっと!危な…ん?これは…」
転んで足元を見やると、ゴロゴロと転がっている石の中にキラキラ光るもの…
「水晶だ…質は悪いがあっちこっちに沢山ころがってやがる…流石だな」
ものづくりもまだ見ぬ完成への冒険。まだ見ぬ目的地を手探りで進む冒険に似ているな。…なんだか詩的な思想になる自分が少し恥ずかしいが、これだけワクワクするのは久しい。まだまだ道は先だ。質が良い水晶を拾いつつ、足は疲れを知らずに悪路を進んでいく。
ガタガタの道はついに大きな段差となり、いつしか身長をも超え、崖へと成長していく。…やっと着いた…!確かに丘と言うほどではないが、小高い崖が目の前に広がっている。世界樹の森…その全容は理事会すら把握出来ていない。知らない事ばかりの宝箱のようだ。その一欠片を今、私は拾い上げるのだ。
「うっしゃ!!やんぞ!やるんだぞ!!」
胸が脈打つ音がする。この日の為にと調整したツルハシを持ち上げる。
…疲れた…。お昼に用意したフランスパンのサンドを頬張る。
「…話に聞いていたが…収穫はトパーズぐらいか…?なんだよ。鉄鉱石ぐらいは…と思ったが、土塊ばっかだ!あぁ、まだ時間があるけど…これじゃ帰った方がマシかなぁ…」
座っている岩の上には収穫物が転がっている。小さなトパーズと拾った水晶、後は泥汚れ。
虚しく汚れたツルハシがずっと目線に入り込んでいる。丘が影となって、昼なのに薄暗くなってきた…まぁ、そうだよな。心入れ替えりゃ全てが上手く進むなんて、物語の世界じゃないんだ。あーあ、興醒めだ…やっぱり帰ろ。
『クソ!なんで失敗したんだ!?もう一度…!』
ツルハシ、洗わないとな…
『…この理論なら…もしかしたら!』
なんか…面倒くさい…
『はは!ついにできたぞ!!』
「…らしくないよな」
ツルハシをぐっと掴む。燃え尽き症候群なんてかこつけて、やらない言い訳なんて、自分らしくない。ものづくりは失敗の連続。最初は簡単な短剣ですら作れなかった。馬鹿みたいに繰り返して、今の腕がある。せっかく燃え上がったやる気、そんな簡単に消していいのか?
「…確か、世話になってるドワーフのおっちゃんが言ってたな…。黒くて脆い層を探せって。小さな石を見つけたらもう少し頑張れって。脈はその奥にあるから…!」
ガッガッガッ…静かな丘にまた騒がしく土を砕く音がなり始める。
「あ、ジーグさん。以前はどうも…あれから丘には行きましたか?」
「ああ。知らない場所を教えてくれてありがとうな」
「家、良ければ鑑定させてくれませんか?」
無論、そのつもりで来たのだ。鞄からゴロゴロと戦果を取り出す。
「…!凄いですね!以前に採掘しに行ったことがあったので?」
「いいや、初めてだ。コツなんてない、ただ私は…」
諦めが悪いだけだと言いかけて、ふふっと笑ってしまった。一瞬キョトンとしていたレオも、以前の気だるさが消えたジーグの顔を見て、深くは突っ込まなかった。
「紅玉に緑柱石…!黄玉…!!素晴らしいですね」
「私が欲しい鉱石は避けておく。これらを売っていいか?後、これを見てくれ」
コトリ…拳大の鉱石を差し出す。見た目の割にだいぶ軽い。
「なんと…こんなに大きな琥珀まで…ん?」
何かの生き物か植物か…ボヤりとした影が見える。
「何でしょう…これは僕もよくわからないですね。すいません…」
申し訳なさそうな顔をしたが、むしろ期待通りの答えだ。早速これを持ち帰って研磨しなければ!過去の自分が手招きしているような、そんな錯覚を覚えつつ、今夜の準備が整った工房へと帰る。
…今夜は時間が許す限り、琥珀と向き合おう。
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水のマナを手に入れた
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