リレイズ-Reraise-
瀬尾宗爾
リレイズ-Reraise-
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僕らは互いに探していた
欠片の足りないパズルのように 運命(さだめ)を
このまま 覚めない夢を見せて
ぜんぜん 言葉にできないけど
こんなにも 心は震えている
悲しみも 喜びも 分け合う君と
ちっぽけな あの日の面影が
こんなにも 大きな羽になる
どこまでも どこまでも 歌は届くよ
僕らの歌
------------------Novel -Reraise-
朝10時過ぎ、いつもより少し遅い時間に起きた俺は、自分より寝坊助なデカブツを揺すり起こしていた。
「起きろー10時すぎてんよー」
「んァ〜あと5時間……」
「もうメシできてっから!あんたが味噌汁飲みたいって言ったんだろ」
布団の中からのそのそと起き上がってくる恋人……っつーか、もうすぐ公的にパートナーになる人は、190cmで刺青まみれのくせに正直かわいい。ごつごつした手が気だるそうにシーツを掴み損ねるのを見て、シーツを汚したまま寝ちまったことを思い出す。早くこの人をベッドから追い出さないと洗うもんも洗えないんだけど。
布団の隙間から出した腕をこっちに向かってゆらゆらさせて、眠そうな声を篭もらせながらラミアさんは俺を呼んだ。
「しゅーじぃ、起こして〜」
「はいはい……うわっ!?」
突然ぐっと引っ張られて、布団の中に引きずり込まれる。そのまま腕の中に抱え込まれて、額に吐息がかかる距離でラミアさんは薄く開いていた目を閉じた。しばらく抱えられるままに抱き枕になっていたけれど、遠くで味噌汁が沸騰した音を聞いて布団を内側から蹴っ飛ばした。
「わぶ、ひっでぇなぁ。かわいいラミちゃんがおねむだろーがよ。くぁ、」
「うるせぇ起きろ、シーツ洗わせろ、朝飯食え」
「ママかよ」
「こんなくそでけぇ子供産んだ記憶ねぇわ。ほら、そっちの端っこ剥がして」
昨日散々濡らしたシーツの端っこを引っ張り出すと、ラミアさんも見よう見まねで手伝ってくれる。布の片端を抱えたまま謎の多幸感に浸っていると、無事剥がし終えたラミアさんから残りがぶん投げられた。バサッと広がった布が頭にかかって、おばけの仮装みたいになる。
「わはっ、なにすんだよ!」
「ハッピーハロウィーン?」
「気が早ぇな、あはは」
もぞもぞ動いて脱出しようとしていると、布を捲りあげて覗き込まれる。正面から視線がかち合って、ラミアさんは何を思ったのか一瞬優しく目元を緩めて充電器からスマホを毟りとった。
カシャッ。
響いたシャッター音に目を丸くすると、ラミアさんは軽く吹き出して啄むようなキスを降らせてきた。
「あ、えっ!?寝癖やべぇのに!」
「ふはっ、かわい」
「う゛っ……んな事言ってもだめ!ちゅーしてもだめ!消せ!」
「ごめんて。お化けってか、嫁じゃね?って思ってつい」
頭に被ったままのシーツを捲り上げられた状態は、確かに花嫁のヴェールアップみたいだ。意図に気づいて急に顔が熱くなる。なんとも言えない顔をして視線を泳がせる俺の右頬をラミアさんの大きな手が包んで上向かせた。
「今のは消すからさ、もう一枚撮らして」
「……こんな寝起きに?」
「ンなのどうだっていーんだよ。今撮りたい」
正直物好きだなって思うけど、たまにはロマンチックなのもいいかもしれない。でもその前に、俺の顔に向けられたスマホを掴んで下ろして、背中を伸ばして触れ合うだけのキスをする。眠気が残っていた目をひん剥くラミアさんに悪戯が成功した時みたいに笑いかけると、呆れたようにため息をつかれた。
「……撮れねぇよバカ」
「誓いのキス的な?」
「さっきめちゃくちゃしたじゃん」
「あはは!足りなかった!」
子供みたいにはしゃぐ俺に、またラミアさんがレンズを向ける。カシャッ、無機質な撮影音で切り取られた一瞬の中の俺は、ボサボサの頭で世界一幸せそうに笑っていた。
「……なぁ、今度は二人で撮りたい」
「今?」
「今もいいけどさ、二人っきりでフォトウェディングとかどうよ」
「宗爾ドレス着んの?ウケる」
「着ねぇよ!」
「意外と似合うんじゃね、ふっ、くく……」
笑うラミアさんの肩をどついたら、まだ痛む腰を軽くしばかれてシーツごとベッドに沈んだ。恨みがましく見上げれば、そこにあったのは予想していた勝ち誇ったような表情ではなくて、微笑みのようなはにかみのような、温かくて不思議な顔だった。
ラミアさんは潰れたままの俺の髪をそっと撫でて、耳もとに唇を寄せた。
「らしくないけど、いいじゃん。フォトウェディング」
「え、マジで!?」
「ドレス着て」
「やだよ。タキシードお揃いにしよ」
「乙女か」
「うん」
「ふふっ……ははは、否定しろよ」
「だって俺、嫁なんだろ?」
「嫁だけどさぁ、絵面がゴツい」
「否定できない」
冗談を言い合いつつちょっと沸騰して泡の浮いた味噌汁の火を止める。器に注ぎながら、毎日作ってやってもいいかもな、なんてそれこそ嫁っぽい思考がよぎって苦笑すれば、後ろからまだァ?なんて間延びした自分勝手な声が聞こえた。
あー、なんだろ。言葉にできないな。
胸の底からじわじわと湧き上がってくる喜びを噛み締めながら、器を両手に愛しい旦那の待つ食卓を振り向いた。
#Growth #藤村衛 #ツキコピ #ざっくり耳コピ
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