メトロノーム
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
メトロノーム
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__𝕀 𝕨𝕒𝕟𝕥 𝕪𝕠𝕦 𝕥𝕠 𝕝𝕒𝕦𝕘𝕙 𝕒𝕨𝕒𝕪.✩₊*˚
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――酷いことを、言ってしまった。
星天界に辿り着くなり、灯莉は力が抜けたかのようにその場に座り込んだ。氷のような冷たい床に、へなへなと膝をつく。
柔らかな星の光が、突き刺すように痛い。灯莉を糾弾しているかのようだった。微かな光の刺激さえ、今の灯莉にとっては頭痛を酷くする要因でしかない。ズキズキと、ジクジクと、痛みを増していく頭痛は灯莉を責めているかのようだった。脳が揺れて、ぐちゃぐちゃにかき乱されていく。上下が反転して、ぐらりと視界が歪んだ。
夜空色の星天界の冷たい地面が、頭上に広がる星空と解けて混ざって曖昧になる。軋むような頭痛に耐え切れなくて、灯莉はぎゅっと目を瞑った。
暗くなっていく視界に、映画の再放映のように、先ほどまでの光景がフラッシュバックする。
きっと一生、灯莉はこの夢を見続ける。口をついて出た、取り消せない言葉を。一生背負って生きることになるのだろう。
謝ったって許してもらえたって、灯莉は自分を許せない。
世界で一番大切な人を――お母さんを、傷付けてしまっただなんて。
一面の清潔な白に囲まれた病院は、なんとなく落ち着かない。ツンと鼻を刺す特有の匂いには、とっくに慣れてしまっていた。
サイズの大きな緑色のスリッパをパタパタと揺らし、灯莉は息を弾ませていた。
一歩を踏み出すたびに、身体が揺れる度に、尋常でない痛みに襲われる。お母さんの病気が悪化したのと呼応するように、灯莉の体調も急激に悪くなっていた。今すぐに膝を抱えて、座り込んでしまいたい。
そんな衝動に駆られながらも、灯莉は歩みを止めなかった。
今日は、お母さんと久々に会える日だったから。
あの日、お母さんの病状が悪化してから。ずっと、会えないままだった。病室を移ることになったお母さんは、面会すらも出来ないほどに状態が悪くなっていた。
自分はどうなっても構わないから、お母さんを治して欲しい。それだけを、ただひたすらに願い続けてきた。
面会が出来るようになったからといって、お母さんの病気が治ったわけでは決してない。今日のたった一度、短い時間だけ、顔を合わせて話すことが出来るようになっただけだ。
それでも、灯莉はすごくすごく嬉しかった。一人で頑張るのは、やっぱり不安で仕方なかったから。周囲にはそんな素振りを見せないように、全て心の中に仕舞って鍵をかけておいたのだけれど。
会いたくて堪らなかった。その願いが、ようやく叶ったのだ。嬉しくないわけがなかった。
花を買っていければ良かったのだけれど、そんなお金はどこにも無かった。代わりに、学校で貰った折り紙を一枚、花の形に折って持っていた。幼い頃にお母さんが教えてくれた、黄色の水仙。お母さんが好きな花だった。味気ない白い部屋が、少しでも明るくなれば良いと思ったから。
足元がふらつくほどの頭痛に、眩暈が拍車をかける。なるべく人目につかないように、暗い廊下の端を歩いた。頑張って、平気なふりをした。灯莉が弱ってしまえば、迷惑と心配をかけてしまう。
相変わらず苦痛でしかない食事も、頻繁な召喚も、全部辛かったけれど。それでも、お母さんのために頑張ってきた。お母さんに、早く元気になって欲しかったから。灯莉が頑張っていれば、きっと神様は願いを叶えてくれる。
幼い頃に大嫌いだと罵った神様に縋るくらいしか、今の灯莉には出来なかった。
久々に会ったお母さんは、酷くやつれていた。顔色は青白く、身体は触れば折れてしまいそうなくらいに細くなっていた。
その様子は見るからに辛そうで。周囲に網目のように張り巡らされた数々の細い点滴の線が、辛うじてお母さんの命を繋いでいるように見えて、泣きそうになった。
治る見込みが薄いことは、その様子を見れば分かっていた。それでも、縋らずにはいられなかった。
人の幸せと不幸せは、均衡が取れるように出来ているらしい。昔どこかで見たもっともらしい言葉を思い出す。その言葉が正しいのならば、きっと灯莉の幸せの分はまだ残っているはずだった。一生の幸運を全部使い果たしても良い。だから、お母さんを治して欲しかった。助けて欲しかった。
「大丈夫よ、灯莉」
酷い顔をしていたのだろう。そっと灯莉の頭を撫でて、お母さんは柔らかい笑顔を浮かべた。「大丈夫」なんて嘘だ。一目見れば分かる。痛いに決まっている。辛いに決まっている。苦しいに決まっている。
なのに、灯莉に心配させないように、無理して笑ってくれているのだ。心の底がジクジクと傷んで、呼吸が不規則になった。
灯莉がいなければ、お母さんに無理をさせなくて済んだ?
ふと、そんな思考が頭に浮かぶ。灯莉さえいなければ、お母さんはこんなに苦しまなくて済んだ?
一度考え始めたら、もう止まらなかった。
灯莉の頑張りだって、ただの独りよがりで。頑張ったつもりになっているだけで、どこまでも無力だ。お母さんの苦しみを肩代わりすることも出来なければ、お母さんを支えることも出来ない。
お母さんのために、何もしてあげられない。重荷にしかなっていない。
濁流のような感情が渦を巻き、思考が灰色に染め上げられていく。張り詰めていた糸が千切れた時のように。ぽつり、と言葉が口をついて出た。
「……私、生まれて来なければ良かったね」
雨粒が落ちるように、濡れた声で呟かれたその言葉に。お母さんの表情が、分かりやすく歪んだ。柔らかだった笑顔が、今にも泣き出してしまいそうな、頼りない表情に変わる。
灯莉の言葉を聞いたお母さんは、今まで見たこともないくらいに、傷付いた表情をしていた。
小さく息を呑み、慌てて自分の口を塞ぐも、もう遅かった。自分の元を離れた言葉は、二度と取り消すことが出来なかった。
「ごめんね、灯莉」
ほとんど骨だけになってしまった真っ白な手が、灯莉の手を包み。お母さんは、震えた声でそれだけを告げた。
灯莉よりも大きな、冷たい手。ぽつ、ぽつと。雨が降るように、白い手が涙で濡れていく。
灯莉は、お母さんの涙を初めて見た。
それからは、どうやって家に帰ってきたのか覚えていない。
鞄にあった黄色の花飾りは無くなっていたから、きっと病室に置いてきたのだろう。
どうして、あんなことを言ってしまったのだろうか。絶対に、言ってはいけない言葉だったのに。
お母さんのことを、傷付けてしまった。泣かせてしまった。灯莉が、灯莉自身の言葉で。
お母さんは、昔から涙を人に見せない人だった。
病気が悪化して、どれだけ身体が辛くても、連日の手術が不安で堪らなくても。いつも穏やかに笑って、灯莉を迎えてくれていた。
お父さんが亡くなった日でさも、灯莉に見えないところで、一人静かに泣いていた。
「大丈夫よ、灯莉」
同じ言葉を零して、灯莉のことをしっかりと抱きしめて。お母さんは、それでもなお、笑顔でいようとしていた。
そんなお母さんが、灯莉の前で泣いたのだ。お母さんは何も悪くないのに、悪いのは灯莉なのに。
涙混じりの震えた声で、ごめんね、と言ったのだ。
どうして、あんな言葉を言ってしまったのだろう。答えは返ってこない。答えなんて、あるはずもない。
取り返せない過ちを犯してしまった。後悔がぽろぽろと頬を伝い、夜色のスカートを濡らしていく。
誰もいない、独りぼっちの星天界。
はぐれた幼い子供のように、灯莉はただ独り、声を上げて泣いた。
星空の下で、嗚咽だけが反響して響く。
まるで、世界に独りだけ取り残されてしまったかのようで。心を埋める後悔に、呼吸さえも出来なくなる。
病室の扉を閉めた後に微かに聞こえた母の嗚咽が、まだ耳に残っていた。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
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✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
🔥初めから僕ら出会うと決まってたならば
どうだろうな
🎈そしたらこんな日がくることも
同じように決まっていたのかな
⚖ずっと叶わない思いばかりを
募らせていては
互いに傷つけ合って責め立て合った
🔥ただ想ってただなんて
言い訳もできずに
🎈去り行く裾さえ掴めないでいた
弱かった僕だ
🔥⚖🎈今日がどんな日でも
何をしていようとも
🎈僕はあなたを探してしまうだろう
🔥⚖🎈伝えたい思いが
募っていくまま
一つも減らない僕を
🎈笑い飛ばしてほしいんだ
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♋︎Cancer #星巫女_紅愛
🔥紅愛(cv.未蕾柚乃)
https://nana-music.com/users/2036934
♎︎Libra #星巫女_藍空
⚖藍空(cv.くろ)
https://nana-music.com/users/1544724
♑︎Capricorn #星巫女_灯莉
🎈灯莉(cv.瑠莉)
https://nana-music.com/users/6276530
₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴ええむ様
https://nana-music.com/sounds/05399dc7
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
#メトロノーム #米津玄師 #ええむ伴奏
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