Ⅴ:生きていたんだよな
あいみょん
Ⅴ:生きていたんだよな
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Ⅴ:生きていたんだよな
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💠二日前このへんで
飛び降り自殺した人のニュースが流れてきた
⚜️血まみれセーラー 濡れ衣センコー
たちまちここらはネットの餌食
💠「危ないですから離れてください」
そのセリフが集合の合図なのにな
⚜️馬鹿騒ぎした奴らがアホみたいに撮りまくった
冷たいアスファルトに流れるあの血の何とも言えない
赤さが綺麗で
💠⚜️綺麗で
💠泣いてしまったんだ
⚜️泣いてしまったんだ
💠⚜️何にも知らないブラウン管の外側で
💠⚜️生きて生きて生きて生きて生きて
生きて生きて生きていたんだよな
最後のサヨナラは他の誰でもなく
自分に叫んだんだろう
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「フリュイを泣かせたのは、君?」
その声で、アルザスはハッと我に返った。自分とよく似た、しかし激しい憎悪の込められた目が、こちらに向けられている。アルザスが言葉を発するより早く、ロレーヌの周りに散った火花が彼目掛けて襲いかかってくる。
「アルザス!? 何をしているの!早く逃げなさい!」
切羽詰まったようなヴァロワの声に、アルザスは遥昔の記憶を呼び起こす。
もう一度、もう一度僕が傷ついたら、ヴァロワは僕の為に泣いてくれるだろうか? 願いよりも、僕の事を見てくれるのかな、また、昔みたいに…………
「例え兄弟でも、フリュイを傷つけるなんて許さない!!」
アルザスは、その憎しみを身体いっぱいに受け止めた。ヴァロワの命令を無視して、その場から動かなかった。桃色瞳は緩やかに蒼い空を捉え、そして唖然として目を見開いているヴァロワを映し出した。
「……出来損ないなのは僕の方だったな。ヴァロワの命令に背いてしまった」
「嘘でしょ……アルザス、どうして!あんな攻撃、あなたなら……!」
ゆっくりと崩れゆく紅を見つめ、ヴァロワは言葉を失った。【主】の言葉を振り切って倒れた【下僕】。どうして。あなたは、私の願いを叶えてくれるのでは無かったの? 私は、特別な人形に選ばれし特別な存在ではなかったの?
混乱と衝撃がとぐろを巻く頭を抱え、ヴァロワは取り乱し蹲る。そんな彼女の頭上から、水のように済んだ声音が降ってきた。
「本当に、そうだった?」
ロレーヌは、フリュイに支えられながらヴァロワを見下ろした。自分勝手で傲慢なこの少女からは、フリュイのような優しさは感じない。けれども、何処かフリュイに似ていると、そう思った。
「アルザスの記憶は、君の事を友達だって言ってたよ。僕は、フリュイと思いを通じあえたから、また立ち上がる力を貰えた。……君も、アルザスの事、ちゃんと見てあげてよ」
ロレーヌは静かにそれだけ告げると、サッとヴァロワの傍を退いた。開けた草花の上に、漆黒の髪が揺れている。ヴァロワはそっとその小さな身体に近寄った。
出会った頃は、精一杯見上げないとその目を見ることが出来なかった。彼の背を追い越してしまったのは、一体いつだっただろうか。自分が特別では無い事に気づき、外の世界に必死でついて行こうと歩みを早めたのは、一体いつだっただろうか。追いかけてくるアルザスを放って屋敷を空けがちになったのは、願いを叶える人形の噂を聞き、都合よくアルザスを縛っていたのは、一体いつから?
「……私、ずっと自分の事しか見てなかったんだわ。願いにばかり執着していた。アルザスは、私の事を助け続けてくれたのに」
震えるヴァロワの頬に、透き通った雫が伝う。温もりを伝えてくれた掌を重ねたら、今からでも間に合うだろうか。
「ごめんね、ごめんなさい……」
ヴァロワは、冷たい顔にそっと額を押し付ける。
あぁ、どうして忘れてしまっていたんだろう。あなたが来てくれた日から、ずっと、ずっと。
私ね、あなたの事がだいすきだったのよ。
「……でも、もう遅いわね。許してもらおうだなんて、虫が良すぎる」
「そんな事ないわ!」
俯いたヴァロワがハッと顔を上げる。泣きそうな目をしたフリュイと、目が合った。フリュイはそっとヴァロワの肩に手を置くと、柔らかく微笑んだ。
「あなた達も、繋がっているんでしょ? 間違っていたと思えるなら、それを認められたなら、きっとアルザスは許してくれるわ」
それとも、あなた達の絆は硝子細工で出来ているの? 首を傾げ、少し悪戯っぽく言ったフリュイに、ヴァロワは思わず頬を緩ませた。
「……ありがとう、フリュイ」
呟くと、ヴァロワは横たわる小さな【下僕】を見つめた。今こそ、彼を解き放ってあげなければならない。
「アルザス」
手を伸ばし、そっと上から抱きしめる。
「ごめんなさい。私もね、本当は、あなたと友達になりたかったの。それが、私の【願い】よ」
涙で濡れた頬に、ぎゅっと顔を寄せる。幼い頃、怖い夢を見て眠れなくなったヴァロワを、アルザスは良くこうして安心させてくれていた。人では無いけれど、どんな人よりも優しい、その温もりで。
不意に、眩い光が辺りを覆った。それは、ヴァロワの胸の辺りを光源に、煌々と輝く光だった。
「……じゃあ、また、一緒に遊んでくれる?」
聞こえてきたのは微かな声。ヴァロワの瞳から、ぼろぼろと涙が流れる。
「もちろん、もちろんよ。これから沢山、遊びましょう」
止まっていた時が、再び動き出す。傲慢な【主】の元で極限まで育てられた【下僕】。叶えられたひとつの願いは、
『友達になりたい』
一人と一体、寄り添う二つの影に、一瞬、小さな少女と真新しい人形の姿が重なって見えた。
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「本当にごめんなさい。あなた達も巻き込んでしまって」
「ううん、良いの。ロレーヌも、お兄さんに会えて嬉しそうだし」
公園のベンチに腰掛け、フリュイとヴァロワはぽつぽつと話し出す。二人の視線の先には、笑顔で楽しそうに走り回る、黒と白の人形の姿。
「私も、あなたも、あの子たちに救われたのね」
「ええ、そう」
ヴァロワは呟くと、一瞬何かを躊躇うように言い淀んだ。しかし、すぐに迷いを振り切ると、そっとフリュイの手を取った。
「ねぇフリュイ。気を悪くしないでちょうだいね。……ロレーヌを守りたいなら、その存在をむやみに人に晒してはいけないわ」
「……え?」
目を丸くしたフリュイを見て、ヴァロワは悟る。この少女とロレーヌは、本当に偶然、運命の女神の悪戯によって出会ってしまったのだと。ヴァロワは静かに息を吐くと、真剣な面差しで口を開いた。
「私のパパはね、有名なドールメーカーの社長なの。これは、小さい頃にパパの元で働く人形師たちに聞いた話──」
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パパのドールメーカーに勤めている人形師たちの中に、一人だけ人形に魂を込めることのできる者がいる。
その技師が作った人形は、全部で三体。ひとつはアルザス、もうひとつはロレーヌ、あとひとつはまだ知られていない。
魂を込められた人形は、選んだ【主】の願いを何でもひとつ叶えてくれる。だから、人形師たちは皆、三体の人形を狙っている。自分こそが【主】になろうと、目を光らせているの。
私はパパの娘で後ろ盾があったから、人形師たちは近寄ってこなかった。私の願いは叶えられてしまったし、これから先も狙われる事は無いでしょう。
だけど、あなたは気をつけて。残った二体の人形のうち、その名が知られているのはロレーヌだけ。ある程度の事は、私が守ってあげられるけど、あなたも覚悟はしておいて頂戴ね。
ヴァロワの話は、そこで締めくくられた。
花時雨のロレーヌ:第1部〜終〜
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💠ロレーヌ(CV:みやこなん)
https://nana-music.com/users/4336977
⚜️アルザス(CV:RAKKO)
https://nana-music.com/users/5226056
🎨菜音葉
https://nana-music.com/users/6838777
第1部
https://nana-music.com/playlists/3674116
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