自傷無色
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
自傷無色
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__𝕆𝕟𝕖 𝕔𝕙𝕚𝕝𝕕-𝕤𝕡𝕠𝕠𝕗𝕚𝕟𝕘 𝕕𝕣𝕖𝕒𝕞.✩₊*˚
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星巫女になってから一人ひとつ与えられた星天界の自室で。
千歳は一人、何をするともなしに夜明けを待っていた。
星巫女になってさえも、千歳は他の少女達が来る前に自室に籠るようになってしまった。
星巫女になったって、何も変わらない。相も変わらず、人と話すのは苦痛でしかない。
苦手でないふりをして、違和感を持たれないように振る舞う努力はしているが、周りの「楽しい」を理解出来ない千歳は、共感出来ない会話を続けることに意味を見いだせなかった。
星巫女になった最初は、何かが変わるかも、なんていう淡い期待を抱いていたのだけれど。
それも、すぐに打ち砕かれた。
どうやら千歳はまだ、失われた「普通」を取り戻したいと願っているらしい。自分の諦めの悪さに溜息が漏れる。
――千歳が元に戻れないことなんて、とっくに分かりきっているのに。
星天界に召喚され、いつものように部屋に籠ってただぼうっと夜明けを待っていたある日。
部屋の扉が、控えめにノックされた。来客?
角が立たない程度に他人との関わりをやんわりと拒絶していた千歳にとって、初めての出来事だった。 無視するわけにもいかず、少し悩んだ末に扉を開ける。そこには澄んだ水色の髪をした星巫女の少女が、俯きがちに立っていた。
確か彼女は、水瓶座の星巫女、雪涙だ。初めて出会った日、その顔に何の感情も浮かんでいなかったことを、何故か鮮明に覚えている。
「…こんにちは。雪涙ちゃん、よね?どうかしたの?」
努めて優しくそう問いかける。人と話すのは好きではなかったが、人の相談に乗るのは好きだった。
千歳が相談に乗ることで誰かが笑顔になってくれれば、千歳は此処にいていいんだ、と安心出来る気がしたから。千歳の唯一の「好きかもしれないこと」と言っていいだろう。
好き、というよりも存在証明の一種、と言った方が的確かもしれないが。
千歳の問いかけに、雪涙は何も答えなかった。わざわざ扉をノックしたのだから、用がないわけではないのだろう。部屋の前から去らないところを見るに、間違いでもないらしい。となると――言い出しづらいことなのだろうか。
「此処で立ち話もなんだし、部屋に入ろっか。ちょうど美味しい紅茶があるの。」
このままでは埒が明かない、と思った千歳は、柔らかい笑みを浮かべてそう告げた。
暦の上では既に春が告げられているとはいえ、やはりまだ寒い。
ドームの階下の部屋と部屋を繋ぐ空間は渡り廊下のような構造になっており、気温は外界と変わらない。
「……ありがとう、ございます。」
俯いたまま、雪涙はそう告げた。思ったよりも幼い、真っ白い雪のような声だった。
儀式の際に歌声は聴いているはずだが、二人で儀式を行ったことはないため、はっきり雪涙の声を認識したのはきっと初めてだ。
雪涙を部屋に招き入れ、座るように促す。星巫女の部屋は――どういう仕組みかは知らないが――部屋の持ち主の望むものが、最初からある程度用意されているらしい。
千歳の部屋には、家のキッチンにあるものとよく似た木製の机と椅子二脚が用意されていた。
初めて入った時には必要ないと思ったけれど――もしかすると、こんな事態になることが予測されていたのかもしれない。誰に、なのかは知らないけれど。
雪涙が話し出すのを待ちつつ、彼女に紅茶を準備する。美味しい紅茶を淹れることが、千歳は得意だった。
美味しいかどうかの判断だって、千歳には客観的にしか出来ないのだけれど――それでも、周囲の人が喜んでくれるのであれば、きっと得意と言っていい。
「それで、何かあったの?」
再びそう問いかけるも、答える声はない。背後のケトルからは真っ白な湯気が立ち昇っている。
しばらくの沈黙の後、先程よりも小さな声で、雪涙が言葉を発した。
「……灯莉を、探しているんです」
前置きも何もない、唐突な言葉だった。常に俯きがちな視線といい、声を発するのを躊躇うような様子といい、話すのが得意ではないのだろう。
「灯莉ちゃんは…山羊座の星巫女の子、で合ってるかな?」
こくん、と小さく頷かれた。
紫髪を快活にツインテールで結った、幼い印象を受ける少女だった。まだ小学生くらいかと思いきや、意外にも中学3年生だったことを覚えている。
「……母がいなくなって。灯莉が、話を聞いてくれて。それで、生きていよう、って思えたんです」
彼女の話曰く。母親を亡くした雪涙は星巫女になる直前、死のうとしていたらしい。
そんな自分に優しく話しかけてくれて、「一人じゃない」と言ってくれたのが灯莉だった、とのことだった。
「父にも姉妹にも、きっと邪魔だと思われてる、って思ってました。……けど。あの後、お父さんと、少しずつ、話をして……私は、要らない子だと思われてなかった。必要だ、って言ってもらえて…姉と妹とは、まだ、話せていないんですけど……
……今の私がこうしているのは、全部、灯莉のおかげなんです。だから、ありがとう、って言いたくて……だけど、会えなくて。知っていることがあれば、教えて欲しくて」
そう言って彼女は、俯いていた顔を上げた。瞳に灯った光は真っ直ぐだった。
千歳が、失ってしまった光だった。
「……そっか。ごめんね?灯莉ちゃんとは数度会ったことがあるだけで、ほとんど話したことがないんだ。……けど。同じ星巫女なんだから、きっとまた、会えると思うよ」
星灯りを灯した瞳が小さく見開かれ、雪涙は少し緩んだ表情で小さく頷いた。
「……紅茶、ありがとうございました。美味しかったです」
話を聞く前よりも、彼女の声は明るかった。雪がほころんで、淡い光を放っている。
紅茶、灯莉にも飲んで欲しいな。小さくそう呟いた声が耳に届いた。
「また今度、二人で遊びにおいで。紅茶とお菓子を用意しておくから。」
去り際、彼女の小さな背中に向けてそう声をかける。
ゆっくりと振り向いて、小さくお辞儀をされる。
小走りに駆けだしていく雪涙は、前を向いていた。
彼女達二人のような、「また会いたい」と純粋に願えるような関係が、少し羨ましかった。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
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✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
❄️君のようなひとになりたいな
🍂「僕らしいひと」になりたいな
❄️望むならそうすりゃいいけどさ
🍂❄️でもそれってほんとにぼくなのかい
🍂子供騙しな夢ひとつ
❄️こんな僕なら❄️(🍂)死ねばいいのに
🍂❄️こんな僕が生きてるだけで
何万人のひとが悲しんで
誰も僕を望まない
🍂そんな世界だったらいいのにな
🍂❄️こんな僕が消えちゃうだけで
何億人のひとが喜んで
❄️誰も何も憎まないなら
🍂❄️そんなうれしいことはないな
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♏︎Scorpio #星巫女_千歳
🍂千歳(cv.07)
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♒︎Aquarius #星巫女_雪涙
❄️雪涙(cv.海咲)
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₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴ねるこ様
https://nana-music.com/sounds/05200d94
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
#自傷無色 #ねこぼーろ #初音ミク
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