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ずっと一緒だよ!【土産クエ 1】
つじあやの
カミツキ街キリエの商店街
ずっと一緒だよ!【土産クエ 1】
カミツキ街キリエの商店街
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「…え?れ、れ、れ…」
「恋愛成就のお守りだよー!好きな人にプレゼントすると結ばれるんだって!」
手渡すシノの後ろで楽しそうに説明するちぇり。目の前には真っ赤な顔に真っ白な目のニフ。2人の温度差にシノは口を閉じた。
「と、と、とは言え…プレゼント…ですか…困りましたね、ずっとそういったお相手がいなかったから…このまま出番なく私が持ち続けるかもです」
顔から湯気が出そうなニフは、ふにゃふにゃした声で嘆いた。2人はその言葉にビックリする。
「え!ホント?」「恋人いなかったんですか?」
2人の素直な反応にニフは半べそ顔になる。失礼な質問を飛ばしたと、シノは慌ててフォローする。
「えっと、ニフ先輩優しいし、私好きなので…今まで恋人いたのだろうって…ええっと…」
「大丈夫だよ!私達が一緒にいるよ!えへへ!」
顔を赤くして情けない顔で泣くニフと慌ててフォローしながら手をばたつかせるシノ。満面の笑みでニフに抱きつくちぇり…出張所に用事があったのだろうか、猿の獣人が扉を開けて中に入ろうとしたが、その状況を見て静かに出ていった。
「あ、あうあう…ありがとうございます、シノちゃん、ちぇりさん…私なんかの恋路を気にしてくれてるんですよね…ぐすん」
「私もシノちゃんも恋人居ないけど…ほら!お揃いのお守り持ってるんだー」
ねー?とちぇりはシノに問いかける。シノも恥ずかしそうに珊瑚を取り出した。お揃いの…ニフの顔が少しだけ何かを想う様な陰りを見せた。
「だから、きっと三人とも幸せでドキドキの恋をするんだよ!だから大丈夫!楽しみだね!」
パタパタと揺れる栗毛の尾は、この寒い冬の空気と春の来ないニフに爽やかな南風を呼び込んでいるかのようだった。ニフは息を長く吐き出した。
「そうですよね!きっとそう…。あ!そうだ!お礼というか…私に付き合わせる様で悪いんですが…同じ独り身の好でご一緒願いませんか!?」
そう言うと、書類の山からバサバサと何かを探り、チラシを取りだした。
「…スイーツラボ…パイのバイキング…ですか?」
シノが受けとり読み上げた。ナルシストなエルフが経営するスイーツラボのものだ。成程、ニフは甘党な上にパイが好物だったっけ。
「1人で食べ放題に行くのはちょっと恥ずかしいなー…って諦めてたんですが…もし良かったら!勿論奢らせて下さい!お土産のお礼です!」
シノとちぇりは顔を見合せた。あのスイーツラボのパイ食べ放題!さらにメンバーはシノとちぇりとニフ…きっと面白いに決まってる!目を合わせた二人は瞬時に互いの気持ちを悟った。
「勿論だよぉ!」「はい!喜んで!」
「それにしても意外でした。ニフ先輩おっちょこちょいだけど…モテそうな気もするんだけどな」
「あはは!おっちょこちょい!確かに」
そこじゃなくて!とちぇりに突っ込むシノ。ニフと日時を決めた後、夕暮れの中を二人は歩いていた。
「ごめんね!ついつい。でも分かるよ!ニフさんいつも一生懸命で、明るくて…私も大好き!」
一生懸命…シノは不意に、はっ!と声を上げた。
「ま、まさか…忙しすぎるから!?恋する暇もないのかなぁ…どうしよう…」
白い髪に負けない白い顔でシノはペンダントを握りしめる。ちぇりは以前に聞いたシノの片想いを思い出した。
「だ、だ、大丈夫だよぉ!たまたまニフさんは出会いがなかったんじゃないかなぁ?…だって、結婚してる理事会員さんだって沢山いるし…ね!」
不安そうにちぇりを見つめる顔は、まるでニフそのものだった。本当によく似た先輩後輩だなぁ…ちぇりはシノの頭をヨシヨシしながら思った。
「でも、本当になんでだろうね?みんな見る目がないのかなー?あんなに素敵な人なのに!」
ちぇりは頬を膨らませながら言った。理事会とキリエの掛橋である彼女…誰もが世話になっているはずだ。魅力に気づかないとは思わないのだが…
「…もしかしたら、私の勘違いかもだけど…」
シノが呟いた。ちぇりはシノの顔を覗く。
「勘違いかもだけど…何かを思い出したような…考えてるような雰囲気だったんだ、ニフ先輩…」
「…もしかして…」「…何かあったのかも…」
その後の帰り道は冬の空の下なのに、そこだけ花が咲いている様だった。まさか、昔報われなかった大恋愛が…いやいや、きっと命を救われてずっと片想いの王子様が…!人の恋路をネタにしてはいけないと思いつつ、ついつい二人はめくるめくロマンスの妄想に更けていった。気づけば空には一番星が、二人に呆れるかのように白白と光っていた。
…………
「…うう、本当は…イチゴジャムのパイ…うぷっ!食べたかったのに…思い出って恐ろしいでふっ」
ニフは嘆きながら震える手でチョコパイを一掴み。…ああ、私は蜂蜜パイ…食べたかったな…ちぇりは恨めしそうに横目でパイの陳列棚を睨んだ。
「別に話に合わせてチョコパイ食べなくても…」
「それは…ねぇ、シノちゃん…」
「へ!?あ、えっと…私は満遍なく…雫苺美味しかったです…」
シノは小声で答えた。しかし、2人にしっかり聞かれていたのか、視線が痛い…。
「あー!でも、甘いってなんでこんな幸せなんだろう!恋ってこんな感じぃ?」
ちぇりはシノとニフを交互に見つめて首を傾げた。二人は恥ずかしそうにこくりと頷く。
「あはは!なら、私はみんなに恋してるのかも!今も!!ねぇねぇ、みんなが成長して変わってしまっても…またこうやってパイ食べようね!ずっと一緒だよ!約束!」
勿論です!口にパイの欠片が着いたニフが、幸せそうな苦しそうな顔で叫んだ。その横には同じく重くなった腹を抱えた2人が降参とばかりに白旗を振っていた。
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パイを堪能しました。
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