ずっと一緒に歩いてきたから
いきものがかり
ずっと一緒に歩いてきたから
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キリエの商店街協会の号令によって集められた各店の店主や住民が広場に集まった。
「理事会主導ではないんですね」
「キリエの街の美化は一応協会の管轄です…とは言え、明確に分けてる訳ではないんですけどね。街の事は皆で力を合わせるのがキリエ流です!」
身長と同じ高さの箒を抱えたシノが、トングと熊手を両手に持って微笑むニフに問いかけた。秋が名残惜しそうに立ち去る冷たい風、寒さに頬が赤らむ。
協会長である人間のルークが声高らかに大掃除の指揮を執る。理事会組は、広場から木の上に立てられている店舗群へ続く階段を任せられた。いつもは世界樹の森から切り出された重厚な石材で造られた階段が見えるのだが、大きな階段を小さな落ち葉が隙間なく埋めつくしている。
「あはは…まるで坂道ですね」
「落ち葉の滝みたい!こんなに沢山落ち葉を見たの、初めてかもしれません!」
落胆するニフの横を嬉しそうに駆けだすシノ。ニフの言うように段差が見えず坂道のようだ。不明瞭な足場と乾いた落ち葉が足元を掬う。キャ!と小さく叫ぶとシノは足を滑らせ転びかけた。シノの背中を細くて温かな手が支えた。
「大丈夫ですか!?足くじいてません?」
思わずニフにしがみつく。シノの無事を確認すると、ホッとした顔をして注意をする。滑りやすいから走らないように!ニフはそう言った直後、足を踏み外して派手に転んだ。青い空に赤の楓が盛大に舞い上がる。心配して駆け寄ったシノも、足が縺れ、青空に黄色のプラタナスを散らす。落ち葉がクッションとなって怪我をしなかったが、開始早々に落ち葉まみれの二人…
「ああ、なんてドジなんだろう…」
「はぁ、また失敗しちゃった…」
恥ずかしさで口からこぼれたボヤキが重なった。ピッタリ同じタイミングに二人は驚いて顔を合わせた。秋の妖精の様に落ち葉を頭につけた先輩と後輩が互いの目にうつり、堪らず笑い出す。
「掃除、やりましょう」
「…頑張りましょうね!」
ニフが熊手で掻き集めた落ち葉を、シノが箒で掃いていく。細かいところはトングで丁寧に取り除いていくと、本来の階段の姿が露になっていく。無言の作業、穏やかな居心地の良さ。かじかむ手を摩る。凛と冷たい風がせっかく集めた落ち葉を散らかす。あー…シノは手を温めるのをやめて箒を握りしめた。
「転んだ時…」
ニフが急に口を開いた。シノはピタリと動きを止める。落ち葉を散らす風は旋風となって二人の間を過ぎ去って行った。
「転んだ時、いつもなら凹んでしまうだけだったと思います。ドジしたり…失敗すると、やっぱり自分はまだまだなんだなぁって…」
気づけば長い時間掃除に熱中していたのだろう、もう空は紅葉と同じ茜に染まっていた。風になびく髪をニフは片手で抑える。
「でも、一緒に落ち込んで、笑って、同じ仕事をして…私みたいな頼りない理事会員を先輩だって慕ってくれる…。初めての後輩がシノちゃんで嬉しいって…転んだ時思ったんです」
いつもの優しい微笑み。夕日が逆光になり顔がよく見えないが、目に瞳の光とは違う煌めきが見えた気がした。
「なんで…そんな…私は!」
ビュウ!風に巻き上がる赤、茜、紅…共に舞うシノの白い髪を美しく際立たせていた。
「私は…先輩を尊敬してるんです。どこまでも真面目で、優しくて、頑張り屋な…いつでも、どんな時でもあの出張所のカウンターに座って微笑んでくれる…ニフ先輩が…」
落ちゆく太陽に顔の影が濃くなる。しかし、眼鏡の奥から頬へと流れる煌めきが見えた。
「私の目指している理事会員の姿だって思ってます。ニフ先輩は私の夢の形なんです」
ニフはふいっと顔を背けて、先程の風に荒らされた落ち葉を綺麗に集めだした。シノは慌てて手伝い始めた。沈黙が気まずい…。私、何か生意気な事を言ったかな…?気持ちが夕日と同じように沈んでいく。麻袋いっぱいに貯まった落ち葉を、二人は各々抱き抱えた。先に1段下りたニフが振り返り、とびきりの笑顔でシノに語り掛けた。
「シノちゃんが来てくれた頃は、こんな夕闇の元で帰していましたね…毎日毎日遅い時間までヘトヘトになって。それでも着いてきてくれて本当にありがとう。研修期間もそろそろ終わりなんですね…シノちゃんが大学を卒業して、理事会員になる道を選んだら、必ずその街に遊びに行きます!」
ニフの言葉が鋭く刺さった。…そうだ…研修期間が終わるのだ…。ここで働いていたのは、そもそも大学のカリキュラムの一環。冬になれば私は…分かっていた、分かっているはずだった…なのに。
シノの目からポロポロと涙が流れた。ニフは何も言わずにシノを支えたあの細くて温かな手を差し出した。シノはその手を握りしめ、ゆっくりと二人が掃除した階段を降りていった。
丁寧に履き清められた石の階段。さっきまで落ち葉の坂道だったとは思えないほどだった。しかし、その階段の最上段には赤と黄色の落ち葉が2枚だけ、寄り添うように残されていた。
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賽子クエスト 成功
リザルト
クリティカル 1
確率 1/2
オーバーキルワード 有り
「赤(今回は茜を該当と見なす)」
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