冷たい夜に見た夢【フィー】
nazna
冷たい夜に見た夢【フィー】
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「あらあら、顔を出してくれたのね。嬉しいわ」
いつもの笑顔が彼女を迎える。ただいま、キリエ。ただいま、私の植物園…。
明日でもいいのに…と園長の優しい声。生真面目なフィーは、キリエに着くと真っ先に園長の家へと向かい、バドン島の土産を手渡した。遅い時間、夜に空が沈もうとしていた頃だった。フィーは挨拶もそこそこに出ていこうとしたが、園長がせっかくだからと、家に招き入れた。
カチャカチャ…いつものティーポットが運ばれてきた。フィーは嬉しそうに礼を述べる。
「南国に居たせいですかね…うう…寒い…」
「いいえ、ここ最近キリエは急に冷え込んで来たの。ハロウィンも終わったから、秋の主はもう御眠りになるわ。ゆっくりと冬に変わっていく…。夜は本当に寒くなったのね」
そうか、真夏の世界に居続けていたけど、キリエはもう季節が巡っていたんだなぁ…優しい手つきでお茶を注ぐ園長を見つめながらフィーは思った。お茶をすすめられ、フィーは湯気の立つカップに口をつけた。
「…?!」
園長が目を細めてフィーを見つめた。
「実はね、東の国から珍しい植物を頂いたの。高僧になる方々が修行の一環で飲むお茶なのですって。とてもほっとする香りに、苦味のあるお茶でしょう?」
ええ…短く返事をしてもう一口飲む。苦味が走った後に、ほのかな甘みが口に広がる。
「その国では弱い心を持つ者はお茶を飲んで寝ると怖い夢を、芯を強く持つ者は神様から良い夢を見せていただけるって信じられてるの。ふふっ不思議な植物はまだまだ沢山あるわね。私は数日寝る前に頂いてるけど、夢に変化はないし、味が好きだから…きっと迷信なのでしょうね」
温かいお茶で体を温めて、フィーは家路についた。今日はキリエでも冷え込みのきつい夜だった。南国が恋しい…。急いでベッドに潜り込むと、早々に微睡み出した。
ボヤける頭の中で、フィーは不意に思った。
「無歌にのまれても自分を失わなかった園長だから夢に変化がなかったのかも………なんてね…」
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旅から帰った最初の眠り。不思議なお茶を飲み、見た夢を教えてください。
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