エルフの傷心
ミニー・リパートン
エルフの傷心
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午後、約束の時間にジーグと合流し、アラタの家にて小箱を受け取った。
「良かったわね!完成まで目前なんじゃない?」
笑いながら強くジーグの肩を叩く。痛い!と怒って振り向くだろう。ニヤニヤしながらジーグの反応を待った。……あれ?ジーグ君。いつもの元気はどうしたのかな?ヤミィは楽しそうに前に回り込んだ。ジーグは肩を叩かれたまま固まっている。
「…ねぇ、ジー」「あのさ」
こちらの戸惑いなど見えていないかのように、ジーグは言葉を遮った。
「なぁ、えっと…ヤミィ。あのさ、昨日の…あれ、アラタの家のさ…ああ、ほら、儀式の時の話なんだけど。どういうつもりで…どうってあの話なんだけど」
「ちょちょちょ!待って。何の話なの?いつもなら要点だけ話す癖に、全然まとまってないじゃない。…あー!夢に近づいて嬉しいのね」
「いや、だから…だから…何で…お前はそんないつも通りなんだよ?何で…あれは嘘なのか?」
箱を抱えて俯いたまま、ジーグは悲しそうに呟いた。ヤミィはふっと微笑んで口を開いたが、言葉より先にジーグの足はその場から逃れるように歩み出してしまった。心に小さく痛みを感じ、ヤミィは溜息をつく。
「…ホント、可愛い子なんだから…」
信じている。私は貴方の為人を知ってる。だから、答えがどっちでも、それこそ無くても大丈夫。ジーグ、貴方は不器用なほど真面目で、誰よりも愛が深い。私はそれを知っているから…
アラタからの返事はきっと銃に関してだろうからと、午後の予定は決めていなかった。きっとジーグは喜び勇んで、デートなんてしてられないだろうから。研究に打ち込む彼の横で鼻歌でも歌ってよう…そう思っていたのだが…
「ダメね、私。好きな物も人も数え切れない程出会ってきたのに…この想いは初めてなのよ。好きだから好きって言ったんだけど…こういうのってどう伝えたら正解なのかしらね…あーあ…」
暇だな…。白い砂浜に背の高いエルフが一人、もの寂しげに海を眺めていた。すると褐色の肌に白いターバンが見えた。不自然に胸がザワついた…午前にジーグと握手をしていたレオ…
「何でこんな事思い出してるのかしら、私」
居心地悪い胸も初めてだ。握手して仲良さそう…それだけ。なのに、なぜ今それを鮮明に思い出しているのか、ヤミィは理解できなかった。そして強い欲がヤミィに生まれた。…ジーグと何を話していたのだろう?他人の会話に興味を持ったのは初めてだ。自分に関係ないのに知りたくて仕方ない。私がいない所で2人、何を話したのだろう。
「ああ、こんにちはヤミィさん。散歩ですか?」
「んふふ、ハロー!ここではハーウェ…かしら?レオが仕事以外で出歩いてるなんて珍しいじゃない」
「今日は予定を開けたんです。やっとゆっくりできますよ。皆さんのフォローをすると約束したのに、さとらさんに任せてばかりだ…」
「せっかく休みならさとらを誘ってあげなさいよ」
レオの目が泳ぎ、情けなさそうに呟いた。
「本当に…でも、一人で考えたくて…。ジーグさんに話を聞いてもらったんです。想いは真っ直ぐ伝えないとって…」
自分の事だけであれだけ溺れかけているのに…ヤミィはヤレヤレと小さく肩をすくめた。そして目の前の彼もまた、自分の想いに溺れかけている。
「けど、いざ彼女を前にして…何を言っていいのか分からないのです。頭では気持ちを真っ直ぐにって理解してるのに…」
「その言葉が分からないんでしょ?」
きっとあの不器用な蜥蜴もそうなのだろう。私に出来て、彼らにできない事。好きを素直に表現出来ないのだ。でも、裏を返せば彼らに出来て、私に出来ない事。それは…
「自分の事よりも相手の気持ちを想いやってしまうのね、優しさ故に。あーあ、ダメねぇ…私はそれが出来なくて失敗しちゃった。…想ったら何も考えずに伝えちゃうの」
「羨ましい限りです…僕もそれだけありのままを伝えられたら、こんなに意気地なく悩まないのに」
「どうなのかしら…自分の中で完結してしまう頭も時に考えものよ…反応をみて、初めて自分の考えと相手が違う事に気づいてばかり。いつもそうだわ。みーんな同じで、もっと簡単だったらいいのにね…」
澄んだ青の空を空虚な痛みを堪えて眺めている、金髪の煌めきがとても美しい。
「やっぱりイヤかも…ジーグが私みたいだったら、愛してないかもね。あの子はとても可愛い。何事にも真剣で、必死に頑張るの…貴方もよ?レオ」
ヤミィはレオに微笑んでウインクをした。
「でももし私の様に想いを告げたいなら、一つだけ。呼吸を合わせるの、相手と。同じ時間を過ごして、同じ事で笑って…呼吸が合った時に自然に分かるわ。気持ちが満たされるのが分かる…それを思い浮かぶ言葉で乗せるだけ。変な言葉になってもいい」
力の入ったレオの肩を優しく撫でる。
「想いを告げるのは…本当は大した事じゃないの。大事なのは一緒に居れる幸せ。共に時間を紡ぐ奇跡。告白なんて、それを言葉にして意識するだけの事よ。だから、不安がらなくていいの」
新しい概念にレオは目を丸くした。しかし、ヤミィの視点は深く腑に落ちた。…そうですね!と確信めいた声で答えると、会釈をしてレオは立ち去った。…はぁ、彼はいいけど私はどうしたらいいのかしら。空笑いをあげるが虚しい…そんな気持ちが通じたのだろうか、不意に気配を感じて振り向くと、そこにジーグが立っていた。
「…あら、聞いてたのかしら?」
「…聞き耳を立てるつもりはなかったが、聞こえてしまったのは許せよ」
「ふふ、らしくないわね」
「本当にな。らしくないのは嫌いだ…でも…」
ジーグは苦悶の顔を浮かべたが、意を決して口を開いた。
「私はヤミィが大好きだ…でも、銃は私とアイツの夢と絆だ。それを追っている今は答えられない…ヤミィに失礼になると思うんだ。だから…銃が完成するまで待ってくれ!」
二人の間に漣の音が響いた。ヤミィは静かにジーグを抱き寄せると、待ってるわ…と囁いた。
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