明日の朝には、おやすみを言うよ
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明日の朝には、おやすみを言うよ
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素敵な伴奏お借りしました!
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至って自然な在り方
白んで意識が砂になる
居たんだ ぼくが確かに知ってるんだ
至って自然なありさま
明日の朝には、おやすみを言うよ
戻りたい 戻れないのは
君じゃなくて
僕じゃなくて
煙の奥に見える君の笑顔は
見たくないな
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同棲していた恋人が死んだ男の話
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「明日の朝、一番におはようって言えるのが楽しみで眠れない」
狭い布団の中でそうはにかんだ君に、ぼくは何て言ったんだっけ。
笑ったんだったかな。多分、そうだよな。
これからはそれが当たり前になるんだよ、って言って、笑ったんだ。
当たり前なんて、人の生きる世界で在るはずないのに。そんな当たり前のことも知らずにいたから、君を失った。
君が帰ってくるのを、僕は家で何時間も待った。連絡が来ないから少し心配したけれど、仕事の帰りに飲みにでも行っているのだろうと思った。
だって、君がこの家のドアを開けて「ただいま」とあの笑顔を見せることが、僕の当たり前だったから。
でも君は帰ってこなかった。初めて、君のおやすみがない夜が来て、初めて、君のおはようがない朝を迎えた。
写真の君が線香の煙の奥で笑うこの光景は、僕の当たり前にはならなかったよ。
君と生きた部屋で、冷たいフローリングに横たわりながら僕は静かに笑った。
何度も君の後を追おうとしたけど、何をやってもうまく死ねなかった。
意識が掻き消える寸前には、いつも君のおはようが聞こえた。砂粒のようになった意識を、その幻聴が掬い上げるのだ。いつも、いつも。
すぐにそっちに行けなくてごめんね。でも、今度こそうまくやるから。
明日の朝には、おやすみを言うよ。
おはようで始まった僕らの生活は、おやすみで終わらなきゃ。
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