凛として咲く花の如く
『 ー 月 兎 ノ 詩 ー 』
凛として咲く花の如く
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「とぉちゃん!!!」
そう大きな声で呼べば、目の前の。
大柄な男性はこちらにぱっと振り向いては満面の笑みを浮かべて。
「采女!!」
そう言って、両の手を広げた。
そんな父ちゃんの仕草に、一つ。また一つと嬉しい気持ちが浮上して。
父ちゃんの腕の中へと向かって、
全速力で駆けた。
_______其れは、私の中の。
随分と古い、父ちゃんの記憶。
腕の中に飛び込んだ瞬間、父ちゃんは私の体を抱え込んでぎゅうぎゅうと痛い位に抱き締めた。
幼い頃の私は、その行動に対して
きゃっきゃ、と甲高い笑い声を上げて。
«喜び»の意を示す。
そんな喜びに浸って、笑い声を上げていた私の体はひょい、と誰かに軽々と持ち上げられて。宙に浮く。
「もう、ダメよ?采女。お父さんの身体に負担かけちゃ。」
そう優しくお叱りの言葉を告げるは…母ちゃん。
«怒られている»、というのに。
幼い頃の私は恐怖という物を知らないのか
「かぁちゃ!!!」
そう言ってニコニコと気持ち悪い位に微笑んでは、小さな手で。ぺたぺたと母ちゃんの顔を触った。
そんな私の行動を見た母ちゃんは「もう、」と言葉を零すと。相も変わらず笑顔を浮かべている私の頬を軽く摘んだ。
途端。そんな一部始終を見ていた父ちゃんは私達に向けて、ははっ、と笑い声を上げる。
「まぁまぁ、母さん。いいじゃないか。」
「久しぶりの家族での休みなんだ。」
そう言って優しく母ちゃんを咎める。
そんな父ちゃんを見て、母ちゃんは。
「…まぁ、それもそうね。」
なんて言葉を返して、ニコリと優しく微笑んで。私の頭を優しく撫でた。
…あの頃は、とても幸せだった。
なんて。本当は考えちゃだめだ、なんて思っていても…どうしても。思考がそっちの方向へと向いてしまう。
なんたって、その記憶は。
どれだけ手を伸ばしたって、
どれだけ願ったって、
もう一生叶いやしない。
だって。今は、もう……
«二人共»。
此処には居ないのだから。
ーーーーーーーー
甘い線香の香りが鼻を刺して、
チーン…と小さく鐘の音が響く。
それと同時に、手を合わせた。
目の前に飾られるは____________
大好きな父の、肖像画。
「父ちゃん、」
目を閉じたまま此処に居るはずの父へ、
そう一つ語り掛けた。
「あのね、父ちゃん。」
「今日もな、天樂にたぁっくさんお客さん来てくだはったんよ。」
「ほんまにいつも。皆に囲まれて楽しくて、楽しくて…。毎日、充実してるで。」
その続きの言葉は、次へ次へと溢れ出す。
そうして_______本題へ
そう、薄らと目を開いて
「…………あのな、父ちゃん。」
「今日な、母ちゃんから。手紙が来たんよ。」
…ううん、あれは手紙と言うよりか。紙切れ…かな。
ポツリ、と訂正の言葉を続けては、くすりと苦笑いを零した。
けれど、無理して作った笑顔はそう保てるわけもなくって、上げた口角がまた下へと落ちていく。
「……«貴方達に会いたい、»だって。
…正直、驚いたし…ほんま?って疑ってしもうたけどな。」
「でもなそれ以上に…嬉しかった。
まだ、ウチらの事興味持ってくれてたんだ、って。まだしっかり愛してくれてたんだ、って。」
「嬉しかった。」
そう、ぽつりぽつりと溢れる本音。
…最初は本当に驚いたし。
嬉しかったのも、本当に事実。
なんなら…«会いたい»と思ったのも。
それも間違ってない。
どれもこれも、心からの本音。
そして、これも____________
「………でもな、…ウチ、怖い。」
私の本音の1つ。
「ウチが、母ちゃんの事大好きなのも。また逢いたいって思ってるのも、あわよくば……あの頃みたいに、一緒に過ごしたい、って。」
「そう思ってるのは変わらん。何があっても変わらへん。」
_だけど、
「だけど、な?」
「果てしなく怖い。ごっつ怖い。」
「母ちゃんと、再開したら…。
何かが。取り返しの付かん事になる気ぃするんよ。」
「それに、………。
小采や、女蕗を。この店を置いてどこにいるかもわからん母ちゃんを探しに行く、なんて。そんなの…無謀過ぎる。」
…でも、でも、でも。
「…これは、我儘だけど。」
「それでも…また、再開したい。そう思ってるウチがいる。」
そう、もう居るはずの無い父へ縋り付く思いで述べた心の内。
気が付けば、自身の瞳からはつぅ、と一滴の雫が垂れていて。
段々と勢いを増して流れる其れは
自身の頬を濡らしていく。
…ねぇ、父ちゃん。
教えてや。
父ちゃんならこんな時。
どうする?
ウチは___________
「どうすれば、いい、かな………」
そう呟いた言葉は。
自分でも驚いてしまうほど、酷く弱々しく。涙を流した故か、所々掠れていた。
誰も拾う筈の無い。
私が父に向けた、最初で最後の相談。
『____________行きなよ、母ちゃんの所』
______そんな、«拾う筈の無い相談»を。
彼女は、拾った。
ーoー ーoー ーoー ーoー ーoー
【キャスト】
🍵采女«cv.琉伊»
⛩️由紀«cv.ここあ»
👘掬«cv.SHiNRi»
🍡美夜«cv.李里葉»
🏹那津«cv.榴兎»
🎐梅«cv.MOCO»
ーoー ーoー ーoー ーoー ーoー
【歌詞】
🏹👘🎐春深く夢の輪郭を
ぼかして行き過ぎて舞い戻る
🍡⛩️🍵花びらは仕草を追いかけ
薄明かりの下で
✨密やか
⛩️つまさきであやす月の兎は踊り
👘星の間を飛びまわる口笛吹き
🎐飛沫あがる、わたし駆ける
追いかける星は
🍵まわる、まわる、
ちいさなつぼみ
✨さいて、さいて、月にお願い
🏹おだやかな影に薄化粧
✨しらず、しらず、えいや!と投げた
🍡つぼみは行方知れずのまま
ーoー ーoー ーoー ーoー
🍵【お借りした伴奏】⛩️
https://nana-music.com/sounds/03c0398c
🍡【御本家様】👘
https://youtu.be/RtbUv8J_fsY
🏹【タグ】🎐
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#掬
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