赤い首輪
Buono!
赤い首輪
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まずい!そこは最近凶暴なドアマースが出現していると報告があった。死の門の番犬と呼ばれる魔獣。そして、何故なんだ…何故彼女の鞄には溢れんばかりの肉が入っているのか?…襲ってくれと言わんばかりだ。みりんはキリエの外に出ていこうとするメアリの肩を掴み、警告した。
「哎呀!そだったカ!!?でも、その場所そんな危険だたかナー?困ったネ…きと今頃お腹減らしてるヨ…どーしても行くのはダメ??」
潤んだ目でみりんを見上げるメアリ。彼女の強さは知っているが、危険を呼び寄せるこの荷物を1人で運ばせる訳にはいかない。私を護衛に連れていくならと条件をつけ、メアリの外出を許可した。
「死の門の番犬…何だか怖いヨー。強そうネ、みりん居てくれるの助かるヨ!」
「勿論危険ですよ…本来は魔族が多くいる地域やゲヘナに近い聖域なんかに生息しているはずなのに」
真面目に語るみりんの口調が、「死の門の番犬」が如何に恐ろしいのかを物語った。メアリが進むのは薄暗い湿地。ドアマースが出る前でも、武器の無い者は通行を禁止されているエリア。話しながら歩く最中もゴーストや魔族の襲撃に合う。
「んー、でもそんな危ない子居たかナー…哎呀!!いつもの感じで戦って進んでたネ。…哎哟!!」
「はっ!!…おかしいですね、目撃例はかなり上がっているので…でやぁ!!…討伐隊を出そうか検討しているところなのですよ」
流石、百戦錬磨の軍神と日頃から厳しい修行をこなしている大道芸人。会話は途切れること無く、レイピアと鉄球が立ち向かう障害をバサバサといなして行った。
沼を超え、この一帯の最も薄暗いエリアは越えた。大きな荷物を抱え、戦いながらの移動…疲れた2人は倒木が横たわっているのを見つけて、腰を据えた。それにしてもメアリはこんな場所になんの用事があるのだろうか。ましてこの荷物の意味は…。
「早く行かないと、お腹空かせてるヨ。約束したネ。きっと待っててくれてるハズ…」
「…立ち入った事を聞いて恐縮なのですが、メアリ殿は…その…何故ここへ?一体、お腹を空かせているとは、誰の事なのです?」
「哎!…そういえば何も教えてなかたヨ…実はワンちゃんが痩せ細って弱ってたネ!だから、同級生の子にお願いしてお肉たっくさん貰ったヨ!待っててって約束したヨ、ちょうどこの先…」
ガサッ!!指さす先の草が揺れた。揺れの範囲からして、大きい…新手か?2人は身構えると、長い鼻と目の周辺は白く、毛皮を被ったように漆黒の毛が上から荒々しく生えた狼のような顔が覗いた。周囲はゾッとするほど暗い瘴気に包まれる。
「…くっ!やはり現れたな!ドアマー…」
「ワンちゃん!!哎呀ー!動いちゃダメヨー!」
…は?今なんと…?ポカンとするみりんを他所に、駆け寄るメアリ。危ない!と制止しようとしたが、ドアマースはヨロヨロと近寄ると、ヘタリとその場に座り込んだ。もう少し離れたらメアリがよく見えなくなるほど、暗い空気。正真正銘、死の門の番犬のはずだ…しかし、メアリはヨシヨシと頭を撫でると、鞄いっぱいの生肉をナイフで小さく切りながら与えだした。…大人しく食べるドアマース。危険すぎる光景、割って入っていいものなのか…幾度となく危険を乗り越えたみりんですら分からなかった。為す術なく、ドアマースの食事を見届けていた。
「信じてくれて嬉しいネ!お待たせヨー。沢山食べて元気になってきたヨ!みりん!見テ見テ!!」
「…あの…ドアマース…」
「哎呀!!どこネ!?かかってくるヨ!ワンちゃんはメアリが守るヨ!安心して休むネ!!」
「後ろ…」「…え?」
「ホント??」
青い顔で頷くみりん。ワンちゃんを見やるメアリ。すると、ドアマースは血よりも赤黒い目を光らせ、闇を撒き散らしながら立ち上がった。
「…屍肉のお陰でやっとここまで回復できた…やれやれ…我が君のお役に立つ前に野垂れ死ぬところだった…我が君も厄介な事を頼むものだ…」
テレパシーだろうか?ドアマースの方から声が聞こえてきた。口をピタリと閉じているドアマースは言葉を続けた。
「娘よ、汝は光の眷属だった為に我らの瘴気に当てられなかったのだろうな、感謝するよ…。我が君の領地から逃げ出したグール共を引き戻しに来ていたのだが、アッシャーの者共め…吾を見るや否や攻撃を仕掛けてくる。仕事の邪魔をされたのは腹立たしいが、この地から力を吸い上げたグール共に手こずり、体力を失ったところを救って貰った恩がある。汝等アッシャーの者を殺さずにここを引こう。但し、吾がまだここにいる間は邪魔だてしないで貰いたい…。次にこの足を止めるような事をすれば…分かるな?」
花祭で無歌に呑まれて以来の、冷たく息苦しい空気が辺りを包む。強い殺気がピリピリと肌を通して伝わってくる。
「天哪!ダメヨー!ヨシヨシヨシヨシ!!」
この空気の中で全く陰る事ない笑顔が、殺気立っているドアマースの鼻を撫で回した。
「…此奴と居ると調子が狂う…さて、早々に此処を出ろ。グール共に喰われたくなければな」
肉の臭いに誘われたグールが何体も現れた。皆体が沼の毒で膨れ上がり、より凶暴化している。しかし、ドアマースは闇を吸い込み巨大な影の狼と化すと、ギラギラと輝く無数の牙を剥き出して、あっという間にグールを咥えてどこかへ消え去った。そのあまりの禍々しさに、目を丸くする2人。
「…確かに長居は無用ですね…護衛します。早急にここを出ましょう」
「そ、そうネ…ワンちゃん、凄い魔獣だたとは…」
荷物を抱えて出ていこうとするメアリを見ると、荷物の奥に赤い首輪。
「…ワンちゃんペットにできなかたネ…寂しいヨ」
死の門の番犬をペットにする気だったのか!真っ直ぐの愛はある意味最強かもしれない…みりんはドアマースと散歩するメアリを想像して小さく震えた。
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数日後、ドアマースの報告が無くなりました。
(みりんの護衛 売上2)
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