視点の先で靡く
嵐
視点の先で靡く
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「わぁーい!たくさんのコスメ!キレイ…!!」
彼女の最大のチャームポイント、光を艶やかに反射させる栗色の毛が、キョロキョロと見渡す頭の動きに合わせてふわふわと踊る。
「くぅーん…こんな大人っぽいお化粧品…使えるようになりたいなぁ!!」
夢見る瞳に負けない天使の輪が髪の毛に輝く。毛先はダンスを踊るようにくるくると跳ね上がり、垂れ下がる耳の後ろには、ゆるゆるに編み込まれた三つ編みが彼女の愛らしさをさらに演出した。
「これ!キレイな茶色…チョコレートみたいです!かわいい…です…えーっとぉ…ヤミィさん?」
栗色が震えるたびに、フェミニン調のフローラルな香りが花開いた。真っ白なカスミソウの髪飾りが髪に散りばめられている。春の精霊に負けない可憐さを湛えたちぇりが、おどおどとヤミィを見つめた。どう見ても誰かが手を加えている…しかもプロだ…
「…ヤミィしゃん…」
あまりに小さな声を上げたために、滑舌がまわらないちぇり。それほど、黙り込んだヤミィの威圧感が怖かったのだ。私何かしたのかな?怒ってる?お腹がいたいのかな?くぅーん答えてヤミィさん!願いが通じたのか不機嫌そうなヤミィが口を開いた。
「可愛いんだけど!?それ誰がやったのよ!きぃぃ!!私の可愛いちぇりを私以外が可愛くさせてるのが、羨ましいぃぃ!」
私のちぇり!??本当に悔しそうなヤミィに驚いて垂れている耳が逆立った。ちぇりは叫ぶヤミィに慌てて説明をしだした。以前、ちぇりの長く豊かな栗毛に目をつけた副長が、是非メイクのモデルになってほしいと懇願してきたらしく、勿論ちぇりは快諾した。それ以来、ヘアアレンジとそれに合わせたメイクの研究に付き合っているらしい。
「前にお喋りに誘ってくれた時も…実は…そのぉ」
…あの時かぁ!うっかり野太い声が飛び出してしまった。ちぇりにご免なさいを喰らって、泣く泣く出張所に行って…不味いドリンクを飲まされたんだっけ…全て私からちぇりを奪った副猫のせいかぁ!私がどれだけ悲しくて、不味いドリンク何杯飲んだことか!!…次の日調子良くなったけれども…
「くぅーん…副長さんの事は前からのお約束だったから、ヤミィさんとお話しできなくて…」
震えながら潤んだ目でヤミィを見上げるちぇり。しかも完璧なヘアメイクで可愛さに磨きのかかった…
「何て意地らしいの!??いいのよ!ちぇりは何も悪くないのぉ!全てはちぇりを独り占めしたあの子が悪いのよぉぉ!!」
「副長さん何も悪くないですぅぅ」
可愛さのあまりちぇりを力一杯抱き締めたヤミィ。その拍子にヤミィの目の前に栗毛が光を放ちフワリと広がった。…あぁ、なんと美しいのだろう。茶色、どの色の中でも地味でパッとしないカラー…どうしても色彩の鮮やかな色、もしくは洗練された無彩色に目が行き勝ちだが、これほどまでに無垢で懐深く、飾らない力強い美を鮮明に打ち出した色はない…ヤミィは思った。在庫を埋め尽くしていたコスメを見つめる。ちぇりと同じキラキラした茶色。
「皆、ちぇりみたいになったら面白い…かも」
急に何を言い出すのか。ポカンとしながらヤミィを見つめるが、ヤミィは全くふざけていなかった。ちぇりの栗毛をすくい上げ、素敵な髪の毛…と呟くヤミィにちぇりは小声で提案をもちかけた。
「…髪の毛をあげることは出来ないけど、似た物なら出来るかも…ヤミィさん、このコスメって服に色が染まったりする?」
「早く洗えば…でも、残念ながら染まりやすいわ。扱う時は垂らさないよう気をつけてね」
「このコスメ、沢山貰ってもいいですか!?」
それを聞いて何故か嬉しそうに尋ねる。困惑しながらも、活用できるなら是非とちぇりに渡した。
後日、ちぇりの髪のような艶やかなチョコレート色の糸の束を携えて、ちぇりはサロンを訪れた。その糸を見て、ちぇりが毛を丸刈りにしたのかと一瞬青ざめてしまった。
「そんな事しないよ!これは友達のアルケニーさんにお願いして、コスメで染めた蜘蛛の糸なんです」
驚いて糸の束を手に取る。艶、質感、細さまでまるで髪の毛だ。
「これでつけ毛やウィッグ作れないかなって」
なんと素晴らしアイディアだろう!ヤミィの中で既にどんなヘアスタイルのつけ毛にするかのアイディアが溢れ出していた。ちぇりに感謝しつつ、手は糸の束を紐解いていた。
数時間後、試作品を2人で試す。ちぇりは栗色の毛を耳の前で垂らし、後ろは一つにまとめてチョコレート色のつけ毛と合わせて大きな団子を作った。まるで髪が後頭部に向け濃淡のグラデーションがついたかのような仕上がり。対してヤミィは輝く金髪に、チョコレートカラーのメッシュがワイルドさを醸し出している。髪色にアクセントがついて、ますますオシャレの幅が広がりそうだ。
「ちぇり、捨てるしか無かったコスメ達が更なるオシャレツールへと華麗に変貌したわ!これは商品として売っていける!本当にありがとう!」
「私は何もしてないよ?アルケニーさんのお陰!」
「そのモンスターさんにもお礼しないとね!」
「それはきっと大丈夫!今頃楽しんでると思う!」
ちぇりはニコニコと答えた。
「素敵!素敵!化粧…凄い!アルケニーの爪、つやつや茶色!面白い!リップ…唇ぷるぷる!ちぇりくれたこすめ、アルケニー好き!!」
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コスメが新しい商品に生まれ変わりました。
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