貴女の後ろの青い鳥
CHARA
貴女の後ろの青い鳥
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ニフは堅く鎖された門の前に、苦悶の表情を浮かべ佇んでいた。門はどんどんと、大きく立ちはだかる壁へと変わっているかのようにニフには感じられた。これは試練なのか…それとも…
「いいから早く入んなさいよ!!」
ついに鎖された門が大きく口を開き、ニフをの
「さっきからなんなの、このナレーション!OPENって看板あるでしょ!閉じてもないのに勝手に鎖さない!!」
「うぅぅ…ですがぁぁ…」
半べそのニフの腕を掴むとヤミィはサロンへと引きずり込んだ。
内心焦ってはいたのだ。最近出張所に訪れる住民が綺麗になっている。そしてついに仕事の後輩、シノにまでその波は訪れていた。総会で、質素ながらも瑞々しい品の良いメイクを施して現れたシノに、隣に座るニフは気が気ではない。案の定広報部に、少しは新人を見習え…と肩を叩かれた。
うう、そう言われても自分を綺麗にってどうすれば…ふらつく頭で仕事をこなしていると、煤で汚れたジーグが訪れた。ああ!ジーグさん!貴方もお仲間ですね!心の中で叫んだニフに、書類を提出する手が残酷な現実を突き付けた…お洒落なネイル…だと!
「で…路頭に迷いまして…今に至る訳ですが」
「計算通りよ」
「へ?」
「お洒落に気持ちがある人はいいの、自分からアンテナを張って、ちゃんと然るべき時に来るから。問題は、理由をつけて出来ない自分を作り上げてる奴…そ!ニフ、貴女よ!あ、な、た」
へひ!ヤミィの睨みに変な声がニフから盛れた。端正なエルフの顔、美しさ故の冷たさと怖さがある。プルプル震えるニフに、はーっと大きな溜息をひとつ。ゆっくり目を開け、鏡の向こうのニフを静かに見据える。
「…ニフってさぁ、なんでこの仕事にしたの?…あ、いや、理由はそれぞれよね。じゃあ、何で続けてるの?理事会の仕事」
「それは…沢山の方々と関われるから…ですかね。頑張るほど街が元気になって、住民の皆様が喜んでくれる。一緒に働いたり、笑ったり…幸せな姿を見るのが好きなのかも知れません」
「じゃあさ…」
少し乱れたニフの髪を優しく撫でる。
「働く喜びをくれる人達がさ、疲れた顔でみすぼらしくなったら、貴女はどう思う?」
「それは嫌です!お休みして、元気になって下さい!ってお願いします」
「そゆこと」
「え??」
キョトンとした鈍いニフを説き伏せてやろうと思ったが、また溜息をつき微笑んだ。
「…なんでもないわ。ほら、フラフラしない!ちゃんとメイク手順と動きを見る!!」
へひー!また息の抜けたような、変な叫びが飛んだ。下地、ファンデ、粉、眉やチーク、紅に至る全ての動作に最大の感謝を込めて、丁寧に、丁寧に仕上げていく。ニフはメモを取りたいと、ヤミィの手を止める事をペコペコ謝りながら、必死に手帳に書き込んだ。…不器用で地味で頼りない…愛おしいおバカさん。ヤミィはニフにデコピンをカマした。
「どう!キリエのサロン長渾身のメイクよぉ!」
外した眼鏡を掛け直す。…外す。拭く。よく拭く。掛け直す。…驚く。
「こ、こ、こ、こ、これが私ですかぁ!!?」
「元は、いいのよ。元は。ちゃんと手をかけたら誰よりも綺麗なのよ?元は、いいんだし」
「元は…を強調しすぎですぅぅう!」
ぶーっと膨れるニフ。楽しい時間。しかし、休憩時間の終わりが近づいたらしい。あああ!早く戻らないと窓口が!相変わらずバタバタのニフ。まだまだ話したい事はあるのに、もう彼女はドアの向こうを見ている…。
「ねぇ、ニフ?」
「…あ、はい!?」
「大好きよ」
「私もです!!」
ニカッと微笑んで出てしまった。…私史上最も厄介な子だわ…はー、と目を瞑るヤミィの後ろで、珍しく副長が腹を抱えて笑っていた。
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ニフに素敵な休憩時間をプレゼントしました。
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