再度の前の一休み
七尾太一 泉田莇
再度の前の一休み
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嘉嘉への道のりは険しい…東の湿地地方のひとつの国だが、高い山が聳え、流れの激しい大河が横たわる。既に嘉嘉を目指す事から修行であり、試験なのだ。メアリはキリエに帰った時の修行着を纏い、驚く程少ない荷物を鮮やかな風呂敷で包んで棒にぶら下げ肩に担ぐ。準備万端!偉大なる大道芸の秘境、嘉嘉の街へ!
荷物が少ないのも理由と決まりがある。河に崖に魔獣…道が険しすぎて大荷物では邪魔になってしまう事ともうひとつ…
「最近克服したドッキドキの椅子乗り芸だヨ!凄いと思ったら、1晩泊めてほしーヨ♡」
夜が近づき街に立ち寄る。そこら辺にあった樽を使って、苦手だったバランス芸を披露。湧き上がる悲鳴と拍手。大道芸人たる者、荷物や己の財布に頼らず、何も無いところから全てを創り出せ!それが師匠の教えだ。メアリに心奪われた少年に家へと呼ばれ、温かな民家で1晩を過ごした。
今日も嘉嘉への旅。最後の難関大運河が立ちはだかった。メアリは詠唱し宙を舞って横切るが、あまりに広大な運河…長距離の飛行に精神が奪われる。そこへ元気のいい声がメアリを出迎えた。
「哎呀!姉弟子!皆!帰ってキタ!ほらほら!」
自分の後輩に当たる弟子たちだ。運河の流れの激しい所で修行する者、運河の中洲の岩に座禅する者、様々だ。
「今集中してるヨ!だから静かにする!安静点!」
あのメアリの義家族、大道芸の門下…そんなメアリの一喝など聞く訳もなく、やんやと騒いでは我先にと師匠の元へと走り出した。
「嘉嘉の歴史、久遠の源流を今に伝える我等が偉大なる老師!門下生、メアリここに戻りましタ」
古びた茅葺きの屋根と白の土壁の大きな建物に広い土地を示す柵に立派な門。鳳凰に龍に虎に…亀って言ったら、煙管で師匠に叩かれたっけ…。門を眺めて思い出に耽るメアリ。
「…開けなぁ!」
ギィィ…古い門が龍の嘶きのようにメアリの帰りを喜ぶ。門の奥には本館の前にズラリと並ぶ仲間たち…皆が思い思いの喜びを顔いっぱいに表しメアリに声を掛けてくる。女性にはメアリとおなじ蝶の髪飾り。男性には花の髪飾りがつけられている。やがてドラの音と共に、愛らしい花飾りをつけたドラコン族と象獣人の隆々とした肉体の男が籠を担いで出てきた。
「我等の家族が帰った喜びは分かるが、静かにせんかねぇ!ここまで来るのにどれだけ苦労するか…ヘタレてたお前達がいけしゃあしゃあとメアリに絡むんじゃあないよ!バカタレ!」
籠の上から煙管が舞う。ポコポコ!と弟子達の頭にヒットした。屈強な男達が丁寧に籠を下ろす。大きな籠に不釣り合いな、細く小柄な鹿の獣人が煙管を美味しそうに吸って座っていた。少しパサついた白髪から立派な角が生えている。
メアリは駆け寄るとザッと跪いた。師匠はのそっと立ち上がってポンポンと頭を撫でる。
「腕は衰えてないね?ちゃんと芸を磨いているかぃ、メアリ」
「ハイ!」
「…何時如何なる時も?」
「楽しんでるヨ!!」
笑顔で答えると同時にメアリはその場でバク転して退却した。籠を担いでいた2人の弟子が、槍と斧をメアリ目掛けて振り下ろしていたのだ。サッと体制を戻すと、扇を片手にヒラリとお辞儀。パンパンと師匠は拍手を送った。
「嘘じゃなさそうだ。私にお前さんの鍛錬を見せてくれてありがとうよ…もう日も暮れる。疲れただろうが少し我慢して付き合いなぁ!御飯は家族で囲むもんだ。それが我等門下の掟さね」
弟子たちは嬉しそうにメアリを囲み、全員で食堂へと向かう。テーブルにはメアリの好物が所狭しと並べられ、どの料理も香しい匂いと出来たての湯気が漂っている。中央には子供の頭ほどの大きな包子が、蒸籠の中でメアリを誘う。哎ー!嘉嘉最高!メアリは叫びながら大好きな師匠と弟子に囲まれ頬張った。
「メアリ、お前の事は理事会員から聞いているよ。お前の故郷で着実に我等の夢は芽吹いている。どうしても感謝を言いたくてね」
憧れの師匠に感謝され、ぱっと顔が明るくなるメアリ、しかし師匠は顔が曇った。
「…それともうひとつお前を叱らねばならん事も聞いた。理事会員や向こうさん方は感謝していたが…お前さん、芸を見せると言った相手を笑顔にしてないんだろ?バカタレ!悲しみに昏れるんじゃあないよ!常に楽しめ!それが波動のように人様に伝わるんだ!お前が諦めてどうすんだい!」
師匠…と呟き、悔し涙をこぼすメアリに師匠は書類を差し出した。
「アヴァロンや理事会に貸しを作っておいて良かったよ…全く、世話のかかる愛弟子だ。笑顔を届けられないお前は半人前だよ!しっかり落とし前付けてきな!」
悔しさを越え、挑み続けろ…取り戻すんだよ、お前と約束した子の心を…師匠の言葉を胸に、メアリは受け取った書類を手に帰路についた。
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「懇願書」を手に入れました。
(使用すると「イキガミ」を崇拝する街にショーを開く申請ができます。使用は「商店街」にて宣言すること)
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