ノープランホリデー
椎名林檎
ノープランホリデー
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「お時間を頂くなんて図々しいかもですが、良ければ是非!」
顔を真っ赤にしてプルプルと震えながらゆっくり顔を上げる。その背の高さに、背の低いシノはぐぐぐと首を上げると、手で口を覆い同じようにフルフルと震えるヤミィが居た。
「…もう…ねぇ…ちょっと……可愛すぎよ!お店が分からないからデートですって!?しかも、こんな街中で情熱的なアプローチ…はぁん…やられたわ…こんなにトキメいたのって何時ぶり!?あ、割りとよくあるわ…まぁ、さておき!!ふむ、分かったよ…私の可愛いデイジー…必ず素敵な花束にしてみせよう。楽しみにしててくれ」
ただでさえ目立つヤミィが地面に跪き、まるでプロポーズを申し込む王子の様に胸に手を当て、恭しくシノの手をとった。…とんでもない人に声掛けちゃったかも…シノは顔が真っ白になった。
さてついに翌日、用意もそこそこに朝食のトーストを齧ろうと口を開けた時だった。
「おっはよう!私のデイジー!!新しい朝よ!時間が無いわ!!早速行くわよぉ!!」
バァン!シノの家の扉が豪快に開き、朝日を背にヤミィ登場。サラサラの金髪がキラキラと日光のライトアップをより華やかに演出した。すらっとした青のパンツにゆったりした純白のシャツ。シンプルでありながら彼の華やかさに鮮明なインパクトを与えていた。開いた口が閉じれずにあんぐりとしたままシノはヤミィを見つめていたが、そんなシノの手を握り外へと連れ出した。木々の上に建てられた商店街の高台、有翼人種が多く店を開くエリア。そのカフェのとびきり景色のいい席を陣取り、慣れた素振りで朝食を頼む。…なんてオシャレなの!?流石いつも素敵なヤミィさん…心の中で感心していると
「良かったぁ!いっつもここ人が座ってんよのね!1度でいいからここで食事したかったのよ」
「…へ?知ってて此処に来たのでは?」
「朝苦手なのよ…眩しいし、眠いしぃ…。ここ帰り道なのよね。下から見上げたら素敵なお店があるじゃない?これだけ早く来れば空いてると睨んだよねー。絶対今日行こうって思ったのよ?……私とシノのハジメテ…素敵な思い出をプレゼント」
首を傾げて流し目で微笑む。サラサラと艶やかな髪が顔にかかる。素敵なテラスで思い出をプレゼント…シノはついウットリするが、はたと気づく。
「えーっと、この後どうします?まだ時間はたっぷりありますけど…」
「…んふふ…ノープラン!!」
やっぱりー!心で叫んだが、そんなシノに目もくれず、運ばれた朝食に喜ぶヤミィ。…まぁ、食べてから話し合おうかな…シノは皿に目を移す。
「…わぁ…野菜がカラフル…オシャレだなぁ」
「…ふく」
「え…?」
「…服、ドレス!色とりどりのスカート!!春色のブラウスに軽やかなカーディガン!!サラダの色合いにレモン色のドレッシング!これ!これよ!!今日はシノをプロデュースするわ!」
…神託か何かだろうか…朝食を見るやいなや叫び出すヤミィ。あれよあれよと予定が決まってしまった。美味しい朝食とお茶に舌鼓、会話を楽しんだ後、颯爽とブティックへ。
キリエで人気の防具屋、スイのお店をくぐる2人。いらっしゃい!ようこそ!嬉しそうにスイが出迎える。デートのクライマックスの始まりだ。
シャー!試着室のカーテンが開く。普段着をうまく着こなした馴染みのスタイル、カチッとしたスーツに春色スカーフのビジネススタイル、色が踊るドレスでパーティスタイル…んー、あーでもない、こうでもない…楽しいデートのはずが、ヤミィの仕事スイッチがきっちり押し込まれてしまったらしい。目付きはプロのそれである。山のように服を着替えてヘトヘトのシノを後目に、顎を支えて考え込むヤミィ。シノの最大の武器はこの可愛さ!やっぱり王道で攻めつつ、春を呼び込むのよ…ブツブツ言いながら、真剣な顔で服を差し出した。淡い水色の愛らしくも品の良いワンピース…シノは浮かぬ顔でカーテンを開ける。
「やっぱり!シノは可愛さの中に気品もあるのよね!私の審美眼は狂ってなかったわ!まるで…」
「お嬢様みたい?」
言葉を取られハッとするヤミィ。複雑な顔でワンピース姿の自分を鏡で見つめる。
「実は…小さな町の名家の家柄なんです、私…。皆大好きだけど…お嬢様と呼ばれてた時代は少し息苦しくて…でも、夢を追いかけて出てってしまった事が気がかりで…私…私…」
「生きてりゃ色々あるわよね!!でも、大事にしなさい。その過去が貴女に美を与えてるの。貴女の武器よ?シノ。だけどね」
冴えない表情のシノに優しく触れ筆を取り出す。
「過去は大切な下地。けれど上に今というメイクを施して貴女があるの。忘れないで」
王道の上品なワンピーススタイルに、少し挑戦したような華やかな色のメイクがシノを輝かせる。
「シノは美しい。私のデイジー、花束の完成よ」
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新しいメイクと服を新調しました。
(シノの理事見習 売上1)
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