猛攻と火の鳥のエチュード
ポルノグラフィティ
猛攻と火の鳥のエチュード
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「ささ!メアリと一緒にショーする人!手が上がらないなら、メアリが選んじゃうヨ!えート…哎!」
生活用品を買い出しに出た帰りだった。何となく人集りが気になっただけ。のはずだったが、ここらでは見ない妙技にうっかり時間を忘れたのがいけなかった…
「そこの不機嫌そな獣人サン!そそそ、貴方ネ!目が合ったのが運命。逆らうの良くないヨ!笑顔で登場よろしくヨー!!」
ギャラリーも何故よりによってジーグを選んだのかとザワつく。いつも難しい顔をし、言葉少なく近寄りがたい雰囲気。美しくも凛と厳しい容姿…コミカルなイメージをこの街の皆が持っていなかった。無論、それはジーグ本人もである。
「はぁ?…他当たれ。何で私が…って、うぉ!」
武器であり、ショーの道具でもある華やかな鉄槌を巧みに操り、ジーグの腕を鎖で絡めた。…満面の笑みを浮かべたメアリの目の奥が笑ってない…コイツ本気だ…
凄い力で強引にショーを開いた場へと引っ張り出される。コイツ、武器を使ってきやがった。面白いじゃないか…そっちがその気なら…手始めにこれならどうだ!ジーグは何かを握り締めるとギュリッと音を立てた。
「今日はナント!2人でショーをするヨー。初めての挑戦、楽しんでってほし…」
パシィン!!風を切り裂き、鋭く叩きつける破裂音が耳をつんざいた。シンプル故に打撃に特化された滑らかにしなる皮の鞭を構えたジーグがニヤニヤとメアリを睨んだ。
「私はショーなんて人に見せる様な芸当はねぇよ。けど、武器を仕向けられて武器屋として黙ってられないなぁ…!」
ザワつくギャラリー、殺気立つジーグ。しかし、メアリは待ってましたと言わんばかりにゾクゾクとし始めた。
メアリは真っ赤な傘を広げると片手に掴み、もう片手で手招きをする。ほほぉ…いい度胸だ。短く言い捨てると体を捻り、本気でメアリに向けてスイングする。メアリは傘を片手で掴み続けながら、舞うように避ける。ジーグは攻撃の手を緩めない。パシンッ!ピシッ!素晴らしい鞭捌きにヒラヒラと花びらが舞うように赤い傘が舞い続ける。避ける度にギャラリーから拍手が起こった。スリリングで瞬きも許さないショー。しかし、ついに鞭は赤い傘の花を掴み、吹雪のように散らせた。
「哎呀!!やられたヨ!…何で、何で戦わネばならない!?私達、もと違う道があったはずヨ!」
急に傘を抱きしめその場に座り込むメアリ。まるで悲劇のヒロインの様に涙声で叫び出した。
「急になに言い出してんだ…」
「でモ!これ、哀しき運命。お願い!目を覚ますヨ!!間違いは誰でもあるネ!メアリが受け止めるカラ!」
…狂ったのか?訳の分からない事を口走っているが、何だか客達が真剣な表情でメアリを見つめている。メアリは涙まで流し出した。そしてゆっくり立ち上がると、今度は大扇子を構えて叫んだ。
「来来!斉天大聖!!」
魔法まで使ってきやがった!!メアリは風に乗り浮遊し出す。こうなったら手加減はしねぇ…!ジーグはついに魔法銃を取り出し銃声を轟かせた。サラマンダーの力を借りた火炎弾がメアリを襲うが、風を操り宙で起爆させられた。扇子の動きと共にパッパッパッと花火の様な火が爆ぜる。ギャラリーの興奮は最高潮。扇子で鳥の様に舞うメアリと、派手な銃声をバックに見事な射撃を披露するジーグ。いつしか2人は笑顔になっていた。人々の興奮に包まれ、異様な高揚感とスリル…舞台でしか知ることの出来ない独特の空気に知らず知らずに呑まれていたのだ。
「ああ!メアリ。私はこの時を待っていた!お前に翼を授けるため、こうするしかなかったんだ!」
即席でそれっぽい台詞を言ってみる。ストーリーはめちゃくちゃだが、ギャラリーはもう2人に釘付けだった。全意識を集中し、扇子へと発砲する。メアリはその正確さに避け切ることが出来ず、両手の大扇子はついに燃えてしまったが…
「火の鳥みたい!!」
子供達が叫ぶ。メアリは炎の翼を纏ったのだ。
火の鳥の姿を取り戻したメアリはついに天へと帰って行きましたとさ…。唐突に始まったエチュードは、無茶苦茶なストーリー構成のまま力技で終わったが、拍手はいつまでも鳴り止まなかった。
「まさか、武器屋サン名役者と思わなかた!また次もお芝居やろーネ!!」
いや、それは本当に勘弁してくれ…さらに気だるい表情のジーグがキラキラと視線を送るメアリの顔を背けて呟いた。
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2人で演劇をしました。
(メアリの大道芸 売上1)
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