明日を託して
CHiCO with HoneyWorks
明日を託して
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らしくねぇなぁ…ブレイザブリクへ飛び立つ飛竜便を待ちながら、空を仰いでジーグは呟いた。手に握られたのは彼が好きだった穀物を油で揚げたスナック菓子とアキネが手渡した羊皮紙だった。約束通り1週間が過ぎるのを待ち、やっとあの日の2人が憧れていた技術の最先端、工業都市ブレイザブリクにたどり着いた。
魔道装置が動く音や金属を叩く音、蒸気の音…様々な音が聞こえてくる。緑豊かなキリエとは形相が全く違う。いつも気だるげなジーグが目を輝かせて街を見回る。見た事も無い装置や素材、術式…時間があったら虱潰しに見るのに!
「ああ、そうだね」
頭の中でアイツの笑う声が響く。幻聴だと分かっているが、ハッとしてしまう。ゴーンゴーン…街の顔である巨大な時計塔が時を知らせていた。
「貴方がジーグさんですか…アグルとアキネさんから申請を承っております。首領より許可が出ましたのでご案内致します」
青い品の良い燕尾服を着た、美しいエルフがジーグを迎えた。ジーグに白衣を着せると、街の中心である時計塔へ向かった。門とは違う入口へ案内すると、ゆっくり立ち止まった。
「アキネさんから聞きました。貴方は彼にまつわる事を何もご存知ないと…本当に全てを知りたいので?引き返すなら今です」
「…私はアイツの全てを受け止める為に来た。案内してくれ…」
「…分かりました。ではこの先見る物、聞く事は極秘事項です。話せば貴方の命の保証は致しません。同意の意志表示の為、サインを…」
先程の羊皮紙が帰ってきた。サインをして手渡すと、エルフはしっかり確認して、胸ポケットにしまい込んだ。
扉を開くと時計塔の大時計がある機械室へと続く階段が遥上まで続いていた。息を切らしながら、やっと機械室の入り口まで辿り着く。静かにエルフはジーグに目を配るとゆっくりと扉を開けた。そこには時計の装置と別に部屋いっぱいに魔法陣が書かれた大呪詛、そして…
「この街は時の三姉妹、ノルンが加護した土地です。この地が誰にも侵されぬよう、時にまつわるカミツキ、半神が集まりこの大呪詛を作り上げました。時計塔…いや、国の研究所はこの呪詛の守りを利用して作られたのです。しかし…」
大呪詛の上に見慣れぬ装置や祭壇、様々な時計と特殊な呪詛や装置に組み込まれた骨や血文字が散らばっている。更に誰かがその場で襲撃された様な血の塊まである。
「しかし…前首領がこの呪詛に目をつけたのです。時の魔法はご法度…使えば術者は存在すら世界から抹消されるのだそうです。その『時』を呪詛により支配しようと考え、プロジェクトが立ち上がりました。この研究は非道を極めた…時に関わる者を見つけては彼らを『パーツ』にしたのです…そして幾度となく装置の試運転を行い、被験者は消滅か発狂、自我の崩壊を起こしたのです」
ジーグは血が引いていくのがわかった。大きなプロジェクト…アイツは確かにそう言っていた…
「お察しの通り。ご友人はプロジェクトの技術リーダーでした。前首領より命を受けた最高責任者である研究員に被験者を見せられ、彼らを救う為といい聞かれされ…。しかしそれも長くは続かなかった。彼は話と作らされる物の違和感に気づいたのです。時同じくして、危険な研究に気づいた周辺国の襲撃にあい、研究は永久凍結したのです」
「話は!話は…わかったよ…それよりさ…アイツは?居るんだよな?この時計塔の何処かに。面白いもん作って、皆を驚かせてるんだろ…?」
声が震えていた。薄々気付いてはいた…手紙が返ってこない、突然アイツの家族が消えた…おかしい事は沢山あった。でも、気付かないふりをしていた。きっと今も…思いに縋るジーグを突き刺す様な冷たい目でエルフは見つめる。
「時を操るこの力、欲する国や団体など腐るほど居るのです。理事会は研究の全壊滅、関係者の保護を試みましたが完璧には出来なかった…彼は技術を欲する者に捕まり…」
私もまた、愚かな選択のせいで…箱を手にした時に響いた言葉を思い出した。愚かな選択…それは街を出た事ではなかったのか…人はなんと醜くなれるのだろう。ジーグは静かに目を伏せた。
長い溜息、そしてゆっくり目を見開いた。
「ありがとう、ありがとうな。アイツの影に縋ってたんだ、私は。楽しかったあの日々に。でも気付いてたんだ、心のどこかで。アイツはもしかしたらもう…アキネに貰った手紙にも書いてあった。沢山のアイディアと、きっと君になら作れる、託したぞって言葉…アイツは…運命を悟ってたんだろうな。なのに、信じたくない私は目を背けて、託すって言葉もねじ曲げて、銃の完成に対してだって解釈したんだ…本当は…」
一筋流れた涙をふき払い、御守りに持っていた蛍石を取り出して見つめる。
「明日を託したんだって…」
帰り際、彼の研究所に置かれていた遺品である名前入りの愛用工具を手渡された。力強く受け取るジーグ。お前が使えなかった分、私が受け継ぐからな…ジーグは親友の明日を抱え、キリエへと帰っていった。
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ブレイザブリクで真実を知りました。
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