ねぇ、笑って?
れるりり
ねぇ、笑って?
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「…大道芸人が護衛?大丈夫なんだろうな?」
地図に導かれ訪れたのは、世界樹からかなり離れた辺鄙な土地だった。アキネから受けとった書類を門番に渡し、連絡を受けて迎えに来た男が怪訝そうにメアリを見つめて言う。
メアリは鉄球をブンブンと振り回し、男へと飛ばした。ひっと男は悲鳴を上げたが、スレスレを飛びながら、鉄球は男の後ろにあった大きな岩を打ち砕いた。…パラパラ…乾いた音が響く。
「ウチの師匠はアヴァロンで武術を教えたこともあるネ…。まだ不安?もっとやるカー?」
いや十分だ!男は半ば悲鳴を上げる様に叫ぶ。
粗相がないようにと服を着替えさせられ、何とも派手な建物へと通された。男は部屋の前に膝まづき、中の者に話しかけると、はい…とか細い声が答えた。部屋を仕切るヴェールが開くと、蛇の獣人の少女が着飾り豪華な椅子に座っていた。
「イキガミ様だ。このお方は特別な年に生まれ、神聖な特徴を全て兼ね備えた、現世に降り立った神である。明日、イキガミ様が我らに未来を示される大事な祭りがある。その間、危険がないよう片時も離れるな!」
「哎ー…うー……えーっと、メアリだヨ!よろしくね!1日しっかり守ってみせるヨー」
「…はい、よろしくお願いいたします」
まるで鈴を鳴らすような響き。目は光の加減で7色に煌めく。ゾッとするような、ハッとするような…不思議な雰囲気の少女だった。
今から祭りの終わりまでメアリはイキガミ様とずっと一緒に居なければならなかった。初めは沈黙が続いたが、メアリの性格と努力もあり、彼女から色々と聞く事が出来た。世界樹に流れ星が落ちた日に生まれた全ての女児を神殿に集め、その年の年神と同じ獣人の子供のみが神の化身であると、この土地で信じられている。選ばれた獣人は神として5年君臨し祭りを司らねばならない。
「流れ星がいつ落ちるかも分かりませんし、100年祭りが途絶えた歴史もあります。故に、この祭りは特別な意味を持つのです…」
しかも神に選ばれた獣人は決して微笑んだり、泣いたりしてはならないのだ…
「うェ…無理無理だヨ!メアリ神様になったら死んじゃう!イキガミ様、笑った事ない?1回も!?」
目を丸くして聞くメアリに、コクリと頷く。
「とてもつまらないヨ!確かイキガミ様、このお祭りで神様終わりでしょ?終わったらメアリがとっておき見せるから沢山笑うネ!約束ヨ」
少女は微笑まなかったが、頬が赤らみ何処と無く嬉しそうであった。
翌朝早くから起こされたが、彼女は特別な準備があるとして、部屋の外で待機を余儀なくされた。何かが焼ける匂い、笑い声、楽しい音楽…哎ー!暇!!メアリの叫びも祭りの喧騒に掻き消された。昼を過ぎると、外が忙しなく動き出した。立派な祭壇に沢山の供え物と花が飾られ、部屋の前に屈強な男達が抱える神々しい籠が迎えに来た。ついに祭りも佳境…神の出番である。
籠の横にピタリとつき、シャンシャンと鈴がなる行列に混ざりながら、メアリは目を光らせる。無事に祭壇に着くと、民衆は静まり返った。荘厳な笛の音と共にイキガミ様が籠から出る…メアリは息を飲んだ。まさにゲヘナの存在が降り立ったと思う程、装飾、衣服、化粧に至るまで美しく、何よりさっきまで談話していた彼女と同一人物と思えない神々しい少女がそこに居た。目を奪われていると、少女はメアリを見つけて目線を送った。…微笑んだような…気がした。
祭壇に上り少女が手を広げた途端、怒号が響く。
叫びと共に数名が魔法銃や矢を放った。メアリは脱兎の如く飛び上がり詠唱する。
「来来!斉天大聖!能打破!!」
嵐が起き、全ての攻撃が軌道を外れ壊れてしまった。少女の前に盾となって立ちはだかり、民衆に当たらぬ様、巧みに鉄球を振り回し応戦した。流石嘉嘉の術使い、テロリストは太刀打ちできずに魔法を詠唱する間もなく打撃の餌食となった。
「イキガミ様、だいじょぶ…」
「危ない!!」
鈴が嵐で吹き荒れ、音色を壊したような痛々しい、悲しい響きだった。相手は奇襲部隊を用意していたのだ。メアリ目掛けナイフで襲いかかろうとするテロリストからメアリを守ろうと、少女はメアリに抱きつき…
「イキガミ様ぁー!!」
怒りに任せ、鉄球を振り下ろした。テロリストはその一撃で地に伏せたが、少女もまた鮮血を流し、虫の息だった。即座に少女はメアリから引き剥がされた。
「ぁあ…ごめん、ごめんヨ!一緒に笑うって…お祭り終わったらたくさん笑うって約束したの二!」
神官に運ばれる最中、メアリの叫びを聞いた少女は…確かに…メアリを見つめて微笑んでいた。
…後日、メアリの元に少女は一命を取り留めたという質素な手紙が届いた。しかし、守りきれなかった、笑顔に出来なかった痛みが、メアリの胸をたまらなく締め付けるのだった。
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賽子クエスト 失敗
リザルト
クリティカル 1
確率 1/2
オーバーキルワード 無し
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