縁の下の力持ち
るぅと
縁の下の力持ち
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ちぇりの仕事の手伝いで、すっかり花の美しさに魅了されたメアリ。そんな中、うってつけのイベントが園芸店で開かれている事を知ったメアリは早速フィーの元を訪れた。
「いらっしゃいませ!メアリさん……ん?」
フィーは羽ばたきながらメアリに近づいた。
「やっぱり…サギリの香りがします。良い香り」
うっとりするフィーに首を傾げるメアリ。サギリ?と考えているとフィーが説明しだした。
「新春の時期に雪のような小さな花を沢山咲かせる低木です。とてもいい香りがするんですよ。人や精霊、魔族にも好かれる香りです。冬の終わりを告げる花として縁起の良い木なんです」
「あれサギリって名前なんだネ!メアリのお家に立派な木があるんだヨ!だいぶお花散っちゃったけど…まだ少し咲いてるの綺麗ネ!」
「立派な木?ならだいぶ古木なんですね。なかなか大きくならない種類だから…サギリの古木が家にあるなんてとても贅沢ですよ!」
「そなの!メアリもあのお花と小さなお家が気に入って住むのを決めたんだヨー」
ニコニコと答えるメアリ。彼女が動く度、フワリと花の香りが追いかける。フィーはその姿を見ると、店の奥へある種を取りに行った。小さな無晒の紙袋を抱えて戻ってきた。
「メアリさんに八千の葉をオススメします!ハーブの1種です。丈夫で、ショーでしばらく世話が出来なくても最低限の水遣りを守れば大丈夫です」
…綺麗な花を想像していたメアリは唖然とした。まさか私へのオススメがハーブだなんて…そんな心中を察してか、フィーは続ける。
「サギリの木があるなら下手な花を植えるより、断然この種を勧めます!サギリの実も花と似た香りがするので、八千と一緒に油に漬け込んでください。…約束ですよ!」
フィーに押し切られ、ポカンとした顔のまま種を片手に帰宅してしまった。綺麗な花が咲く訳でもないハーブの種…とはいえ、このままにしても仕方ないので、メアリは口を尖らせつつ、木の下の土を掘り起こして種を植えた。
程なくして葉は芽吹く。わ!可愛い!とその時はテンションが上がったが地味な葉が茂るばかりで、気持は直ぐに冷めてしまった。それでも水遣りは忘れずに…今日も朝起きてジョウロを片手に大あくび。ショーに飛び回った時には雑草が茂ってしまい、どれが八千だか分からなくなりそうだった。哎ー…とため息。今日は暇だし雑草を抜くかな…と木の下に座り込み、力任せにポンポン抜く。雑な抜き方に根っこが出てしまった八千もあったが枯れずに青々と育ってくれている。
「あはは!亜人の弟弟子を思い出すネ!どんな重くて痛い芸も元気にやてたよー。八千も強い子だネ!でも今度は気をつけるヨー」
ニコニコと水を与える。最近水遣りをすると、サギリとは違うさっぱりとした香りが漂う様になっていた。心なしか、この時間が楽しみになっている。翌朝も水を撒いていると、通りがかりの人がここはいつもいい香りがすると話しているのが聞こえた。また明くる日は、やだ!八千じゃない!何枚かちょうだい!と八百屋のおばちゃんに声をかけられ、お礼に新鮮な野菜を貰った。…に、人気者ネ…うっすら八千に嫉妬するメアリ。八千は今日も元気に葉を風に揺らす。
そのうち、八千から雄蕊が沢山突き出て毛玉の様になった地味な色の花が咲いた。
「そろそろかと思ってました!」
瓶を抱えたフィーが後ろに飛んでいた。おはよ!元気に挨拶した後、フィーは説明した。
「お気づきと思いますが、この二種類の植物は香りの相性が抜群なんです!八千とサギリ両方ちぎっても良いですか?」
許可すると、フィーは瓶に葉や花、実を詰め込み油で満たして封をした。
「2週間経てば使えます!マッサージオイルでもアロマオイルでもお好きに!きっと驚きますよ!」
ワクワクしながら2週間待ち、早速塗ってみる…
「…わぁぁ…!!」
自分が花になった様な感覚。食べれて、香りも良くて、化粧品にもなる!!八千は華はないけど、立派な大道芸人みたい!みんなを笑顔にするんだね!と心で思った。以来、ショーが始まる度になんとも言えない美しい香りが漂ってきたという。
今日もジョウロを片手に大あくび…。花をそのままにすると、こぼれ種でまた来年も生えてくるそうだ。この家の魅力がまたひとつ増えた。
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家にハーブが仲間入りしました。
(フィーの園芸店 売上2)
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