シティライツ
椎名もた/キャプション:あいまいえいみぃ
シティライツ
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#七色連歌 #ぼくらのイシ
-Merry clear color days-
この世界は、色彩のないものには優しくない。かと言って、彼女には酷な訳でもない。
それは元来の気質か、周囲の環境か、はたまた時の運か。色を持たないシナは、彼女なりに自分ができることを見つけた。そして、周囲を喜ばせ、役に立つことができた。
彼女にとって、決して生きやすくない世界。それでも彼女は前向きに、ついでに省エネで生きている。
「おはようございます」
寝ぼけているのか癖なのか、どこか伸びた挨拶。シナは背中を伸ばし、立ち上がる。カーテンから微かに差し込む白を辿り、ゆっくりと手を伸ばして色を迎え入れた。
今日は何をしようか。そんなことを考えるのも程々に、そっと部屋を出る。とりあえず朝ご飯を食べてから考えることにした彼女は、キッチンに臙脂色のエプロンを見つけた。
黒のロングスカートを揺らす父に挨拶すると、父からも快活な挨拶が返ってくる。母は今日も今日とていない。今日の日付を確認して、兄は仕事だと悟った彼女は席に着く。
すぐに父が温かい料理を持ってきた。
「いただきます」
トーストに黄色いバターを塗ると、とろりと溶けて染みていく。赤いトマトが転がれば、緑のレタスにぶつかる。青いグラスでミルクが揺れて、向こう側で父は黒いコーヒーを啜る。
熱いとコーヒーカップを置くと照れたように笑うのを眺めて、シナはトーストをかじった。口の中で少し冷たいバターが広がり、熱めのトーストはモチモチと弾む。
今日は何をするのか。考え中。そんな会話をしながら朝食を終えると、手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
さて、今日は何をしようか。
再び考え始めるものの、なかなか決まらない。今日もアトリエか、たまには外に出るか。インスピレーションが、出かけるのは少し面倒くさい。それだけをグルグルと考えては、また考え直す。
シナが部屋に戻った頃には、部屋に差し込む黄色が少しだけ白いカーテンを閉めていた。
窓を開けて風が吹き込めば、彼女は思いつく。
「行ってきます」
いまいち思いつかないなら、外出が面倒くさいのなら。家の敷地を散歩してみよう。
慣れた景色を見回してゆっくりすれば、何か思いつくかも知れない。敷地の中でなら、もし倒れても街中よりマシだろう。
見回す世界は色に、音に、熱に満ちている。素敵な発見に満ちている。
やがて世界が赤く染まり出した頃、もうこんな時間かとシナは家に戻る。カラフルな世界の話を持ち帰り、何から話そうかなと思いながら。
「ただいま」
扉を開けば、二人分のおかえり。どうやら、兄が仕事から帰ってきたらしい。
洗面所からリビングに入れば、青磁のパーカー姿で兄が笑う。良いことがあったらしく、食い気味に話しかけてくる。今日は何が聞けるかなと相槌を打ちつつ、父が調理したおかずを摘み食いする。
悪い子だと悪戯っぽく笑う父に、シナはいつもより楽しげに呟く。
「ごめんなさい」
まだまだ今日は続くけれど、明日は何があるのだろう。
いただきますと、土産話と共に兄が買ってきた惣菜をつつく。彼女好みの味に微かに笑みを溢すと、生きづらい世界も捨てたものではないなぁと箸を止める。
「ありがとう」
明日も、何もなくても良い日になるといいな。
-澄んだ鮮やかで幸せな日々を-
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