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秘密結社 路地裏珈琲
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「よう、久しぶり」
「ほんとにね。あれから、何十年経ったかな、兄さん」
僕は、僕とそっくりで、だけど完璧に作られたその男と、不思議な部屋で向かい合ってテーブルに着いた。宗教画に描かれるモチーフにはいくつかポピュラーなテーマがある。例えば僕のような、犠牲を伴う世界観に佇み寄り添う救世主。あるいは、目の前の彼のような、強大な力で迷える人を解放するタイプの救世主。
「なんでまた、こんなところに?」
「なんでだろうなぁ、でも会いたくなったんだよ、なんだか急にさ」
「嬉しいよ、長いことひとりぼっちで暮らしてた」
「そう?お前の目、その割にはワントーン明るくなったみたいだけど」
おもむろに、彼は僕の手を取って強引に引き寄せ、なんの断りもなく、さも当たり前の顔をして唇を重ねてきた。側から見れば度肝を抜かれるような光景だろうが、今ここには誰もいない。彼の意図をすぐに察した僕は、抵抗する気は無かった。
「......悪巧みの味がするね」
「まあ、堅いこと言うなよ。俺のは“目覚めのキス”、お前のは“おやすみのキス”...お互い、備えておくに越したことはないでしょ」
“最愛の君に、祝福を”
耳奥に残るその優しい声に、ハッと息を飲んだ、そこで
僕は、夢から醒めた。
「......朝、か」
時計は7時40分。旅出ちの朝の出来事だった。
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