「お仕置きが必要だね?(後編)」(秋那兎完結)
秘密結社 路地裏珈琲
「お仕置きが必要だね?(後編)」(秋那兎完結)
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秋那兎さんのアンサー↓
https://nana-music.com/sounds/0514d725
最初は誘拐事件、人質立てこもり事件に警察の特殊部隊でも突入したかのような、物騒な景色だった店内が、さながら学校の呼び出しを受けてセッティングされた三者面談...くらいの空気感まで軽くなった。自白剤を自力で調合して飲ませるだなんて、前代未聞のいたずらではあったけれど、話を聞いてみれば出てくる単語は可愛いものだ。
「で?どーしても気になって、恋バナ聞き出しちゃったって?」
「そうです......だって何聞いても、さあねと今度ねではぐらかしちゃうから」
「そうだよねぇ、大好きな友達のことは、やっぱちゃんと知りたいもんねえ」
「そういうことなんです!!なんかめちゃくちゃうまく効いちゃったけど、私は決して悪用しようとはこれっぽちも!!」
「だっ...と、ともだちって...」
秋那兎の誘導尋問でポロポロ出てくる単語がエグい。こういう時は、狡いくらいでちょうどよいくらい。的確にサトウさんの弱いところ、ちょっと照れくさくて、情が湧いちゃう一言を引っ掛けちゃ出しして、これでもかってくらい並べてやれば、段々、不機嫌丸出しに威圧していたサトウさんの方が、口を尖らせてバツが悪そうになってゆく。
そのうち机に伏せて、ああもうイイよだとか、やめやめって言い出しそうな耳の色になってしまった。まぁ彼も血が通った人間なのだから、話せば分かるってことなのだ。
「ま、一応悪いことしたからね。ごめんなさいってことで、お掃除当番くらいは私もやっていいと思うんだけどさぁ...」
「じゃあ、食料庫の期限切れ食材のチェック1式」
「そりゃ3人がかりのやつじゃんか〜、ほら、もうちょっと軽いのがさ!」
床のモップとワックス掛け、1日分の皿洗い、もう一声もう一声って、もはや楽しくなってきて周囲が浮き足立って交渉を見守る中、ついにサトウさんが盛大なため息をついて、“ああもう!”と天井を仰いで先に折れた。
「......星こちゃん、選ぶんだ」
「は、はいい!?」
「イチロウくんの朗読であの怪談話ばっかりするなんとかジュンジっておじさんの怖い話をこれから夜中に聴くか、冗長でくそつまんないタナカの大好きなプログラムの効率的な組み方の授業を延々聴くか、選んで」
なんで今俺たちは巻き込まれたんだと抗議の声が飛び交う中、星干しの顔はいろんな恐怖で歪んで、あからさまにと訴えかけている。“どっちも遠慮したい”と。十分に可愛いレベルまで落っこちてきた、サトウさんのお仕置き。否、素直に仲直りするのがちょっとだけ苦手な彼なりの、和解案と言った方が正しいかもしれないそれを、さあどうしたものか。ここまでくれば答えは別に、どっちだっていいのである。
「私かいだーん!」
「私も怪談話に一票です!」
「タナカさんの話も、為になると思うけどな...」
この騒動の顛末は、サトウさんの負けってことで。
好き勝手に多数決を取り始めた仲間たちに、文句を垂れて張り合う顔は、もう怒ってなんか居ない。僅差で選ばれた怪談話に、仕方がないねと言いながら、やる気まんまんのイチロウが飲み水を取りに立った。カウンターのスズキを呼ぶ間、あっちこっちからみんな椅子を持ち寄って、ブランケットを引きずってくる。
「......覚悟してお聞きいただきたい、今日僕が諸君に話すのは、この世の理で説明のつかない、身の毛もよだつ怪異についてだ」
逃げるなとばかりに星干しを膝の上で捕まえたサトウさんが、楽しそうな秋那兎の微笑みに、ちょっと口元を緩めてからそっぽを向いた。
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「......ありがと、兎こちゃん」
「へいへい。もーちょっと、大人になろうね?」
なお、イチロウさんのガチ語り怪談で双子の警戒レベルが上がった話と、悲鳴が飛び交い最終的にTちゃんがフリーズした話は、きっと来年の夏ごろにまた、笑い話として戻ってくるんじゃないかと思います。
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